めだかといっしょにきく音楽会 @宮崎 木城えほんの郷 with 巻上公一/太田惠資 その2

25日、コンサート本番の朝早く起きてネットで情報収集。
海は近いけど釣り場はないのか、やはりネットより頼りになるのは地元の釣具店。
味噌煮込みうどんを部屋で作って平らげて、道具一式を担いで、
またしてもチャリを爆走して一番近い大型店へ。


初めての地方に行き地元釣具店の品揃えを見れば、だいたいこのへんは何が釣れて、
どういう釣り方をするのかはわかってくる。
…どうも自分好みの道具が少ない。餌は豊富だが嫌な予感。
店員を捕まえて、このへんの釣り場、場所の形態(防波堤、港、テトラなど)を聞くと
まず最初に「この街で釣りする人はあんまりいませんよ」と・・・。
昨日見たサーフはいかにも遠浅で波が常に高い、釣り物としては結構大型の青物などが
出るらしいのだが、それも望み薄だとか。
僕は基本的に港での釣りが得意で好きなので、聞くと「近所にはない」の釣れない返事。
ここから10km以上移動するとないこともないらしいのだが、そこまでは行けそうもない。


何も買わず店を後にして、昨夜見た釣り場を再調査する。
海に注ぐ大きな小丸川のほんの細い支流、小舟が浮かぶ水路のような場所に釣り人がいたので話を聞くと、地元の人でもなく、ハゼくらいいるかなあ、ということ。
水深は40、いや、30cm…。幼稚園児くらいの子供連れには良いが。
昨日茫々と荒波を見せたサーフへ自転車で走る。昨夜不気味で仕方なかった真っ暗の防風林も
朝に見れば違う顔。ただ、波は荒く、人は殆どいない。

真っ黒な顔のおばさんが息子らしき男性に仕掛けを作らせているので話しかける。
この人もここは詳しくないらしいが(そして宮崎弁が濃くてあまりわからない)とにかく遠浅で釣るのは難しいということ。
竿は5m超の遠投用、中通し丸型オモリ15号程度でハリスの長い一本針遠投ブッコミに見える。
こんなゴツイ装備は持っていないので、頑張ってください、と残して浜沿いを走る。
どこまでいってもダメ…。


仕方なく、ハゼ釣り親子がいた水路から最河口に向かうと幾艘かの小舟が並び、地元の人が船の補修をしている。
手漕ぎ程度の船ばかりで、水深は一番手前で30cm…。底は砂地だ。
手元には短い磯竿に得意の落とし込み用タイコリール、つまり投げることは出来ない。
980円くらいで買った中古の怪しい会社製スピニングリール(多分ルアー用)をつければなんとかなるだろう、
という目論見の元、さっきの釣具店に戻り、一番安い生き餌岩ゴカイ(初めて買った)300円をゲット。
夏の日差しのような厚さの中ひいひい言いながらチャリ走らせて河口に戻る。


リールを付け替え、投げに向かない竿で可能な限り投げてみる。
出来合いの鱚カレイ用投釣り仕掛けがあったので中通し3号つけて全力投入。
20m飛ばない…。まあ狙うのはそこら辺だったのでよし。
小さくあたりがある、が大きな河口には上流から流れてきた草が溜まっていてこればかり引っかかる。
あたりは多いのに…。仕掛けを変更、その場でオモリを直付けして枝スを一本、
道糸はフロロ1.5号通し、針はチヌ管付1号をフロロ1.5のハリスで50cm。
これでエイヤと投げる。やはり20mが関の山…。
潮の流れを読み、そこの深さの変化を探って1時間半、ようやくここかと思う場所が決まる。
そこは小舟と小舟の間で、先調子落とし込み向きの竿ではコントロール定まらぬ。
しかしなんとか一番深そうな流れが落ち着いたところに投げ入れると、とたんに強いあたりが。


かかった!
何かは瞬時に判断できないが非常に強い引き、スズキかと思ったが逃げ方で大方あれだと確信。
となると横に逃げられるときは岸辺を一緒に走ることになる。
なにせ非常に弱い仕掛けだ。船を係留しているロープが邪魔だ。
ドラグを緩め締め、なんとか岸に寄せるが、タモがないので最終手段、
竿を放り出して糸を慎重に手繰り寄せる。
釣りなれない人には分からないが、繊細な竿では大物は持ち上がらないのだ。
なんとかかんとか、大きく光る魚体を岸に釣り上げてストリンガーをエラに通す。

やった!チヌ(黒鯛)だ!
このへんでチヌのトーナメントやっていた記事は読んだので釣れれば、とは思っていたが、
まさか最初に釣れるとは。(まあキチヌではあるが)
しかも大きい、メジャーはないが45cmは優に超えている。
(釣り人はすぐに大きく見積もるので危ない)
大きなフロートが付いたストリンガーを水に放すとまるでウキのようにチヌに引っ張られる。


この後は数投に1尾の割合でチヌのこどもが入れ食い状態。
大きくなれよとやさしくリリース。釣っておきたかったハゼも釣れた。

ともかく、全く知らない場所を自分で釣り場と決め(そこが地元の人に連れないと決めつけられた場所で)、
自分で考えた仕掛け(これは主に船で使うもので、投げはしない)、
なれない道具を組み合わせて、居場所を探り出し、
5歳以上で年齢を判別することができなくなるという50cm以上の通称「年無し」を
生まれて初めて釣り上げた興奮は、抑えがたいものだった。


さて時間切れ。
それにしても、このチヌどうやって持って帰ろう…。
近くに大きなケーキ用の発泡スチロール製箱を見つけたので入れるが、
ほとんど入らない(写真参照)。

まずはナイフで活け〆。
大物のチヌは背骨が固く難しい。この時いつも命の重さを感じる。
血抜きをして箱に無理に詰め、
あわてて上着で縛り上げてチャリのかごに載せてまずは釣具店に戻る。
氷を買って「釣れましたよ!」と見せると「釣れない宣言」した店員は絶句、
おばちゃん店員は笑顔だった。
駐車場で氷を砕いてうまく敷き詰めて、魚体に直接触れぬように袋に詰めてホテルへ。


ホテルでは早いが独りビール。最高にうまい!
もし喫煙者なら、タバコも美味かっただろうなと思う。
チヌを洗ってコンサートの準備をして会場へタクシーで。


まずは打ち上げ会場の厨房に行って釣果を報告。皆大喜び。
演奏後が楽しみだ。
昨日同様天気もよく、昨日の入念なチェックで準備も万端。
余裕を持って食事をし(昼抜きだったのでたくさん食べた)
19時からのライブへ。
照明と焚き火に照らされ、演奏音に負けないくらい大きな虫の音とともに2部演奏。
内容は即興だが、それだけに周りの環境に左右される。
なにせ「メダカに聴かせる音楽会」なので、気楽かつ集中できる。
気がつけばミニマルな演奏になっていくのはここならではか。
途中MCで釣りの話を振られ、音楽そっちのけの話しになってしまった。
「幸せです!」と素直に言ってしまった。
生まれて初めて釣りで拍手をもらった。


演奏後はサイン会や片付け後待望の打ち上げ。
チヌは地元の料理の上手な女性陣に任せておいたら、姿まるごとハーブ蒸し焼きにしてくれた。

なんと、腹の中には掌に乗るくらいの卵が入っていたとのこと。
この季節に???嘘みたいだ。

とともに、多くの子を生む母親を殺めたことも重く受け止める。
魚によるが僕の好きな底魚などは数万の卵を産卵しても成魚になるのは1,2尾だという。
でも、釣りとは、こういう側面もある。好きな魚を、殺すのだ。
今回は飽食ではなく、皆のお祝いの場に出せたのが少し救いだった。


この時は地元産のご馳走が正揃いで、中でもイノシシ汁と鹿の煮物、サルトリイバラの柏餅やむかごの炊き込みご飯、独特のおでんなどが印象的だった。
酒はビールと焼酎。やはり地の物がすっと体に入る。
チヌは、味付けも火通しも完璧な、最高の一品だった。
瀬戸内ものとは香りも味も違う。本当に絶品。
ちなみにこの際に真鯛の塩焼きが用意されていたが、贔屓目抜きにチヌのほうが美味かった。
なにせ天然物の活け〆だ。
スタッフ含めて25人がかりで食べられる一尾ということで、大きいことは分かる。


地の人達の明るいパワー、食べ物や生活を大事にする人たちとの交流は非常に楽しい。
宴もたけなわ、照明担当の安井さんという方が、駆けつけてやってきた
「高岡さん、なぜ私を呼ばなかったですか、私は釣り人で、それもチヌ専門です。
あなたが釣っていた場所の10m先に住んでいたのです(確か廃屋があった)。
あんな場所でチヌ、年無しが釣れるなんて、57年生きてきて聞いたこともない。
とんでもないことです」
と仰って、跪いてしまい、握手を求められた。
そんなとんでもないことをしてしまったのか…。
(書きそびれていたが、焼く前に料理担当の方が計測して50cm超えていたそうです)


音楽の事は言葉にしがたいのでちょっとしか書いてないですが(これも相当な面白さでしたが)
釣りはこうやって、何度でも反芻できる。
加えて、この釣果は皆で分けられるという期待以上の喜びがあった。
自分だけが食っていくなら、小物を数尾釣れば満足だ。
しかしたまに大物が釣れたら、自慢ではなく、皆で食べたい。
昔の狩猟の記憶だろうか。


全身が物凄い充実感に満たされているまま、見送られてタクシーで山を降りてホテルへ。
独り部屋に戻っても、興奮が収まらない。
酒もなしに時間を反芻し、思い出すだけで手が震える、眠れない。
忘れられない宮崎、木城、高鍋

本番前に腕立て伏せで鍛える巻上公一さん