森山威男ジャズナイト

森山威男ds 山下洋輔p 坂田明as,cl
類家心平tp 川嶋哲郎ts 中路英明tb 高岡大祐tuba 水谷裕章cb

ついにこの日。
当日は台風接近の影響もあり、雨。
当日入りの山下さんと合流してリハーサルも無事終えての本番。


一部は山下洋輔トリオ。
グシャっとなってるのに耳馴染みのある三曲。
圧巻の音塊。それぞれが独立しているようにも一つのようにも聴こえる。


二部の前に森山さんのコンサート恒例のジャンケン大会。
いつもプレゼントを用意しているが今回は流石に豪華。
全員のサイン入りポスター、サイン入りドラムヘッド、サイン入りスネアドラム(新品!)、
そしてあの幻の名盤「ダンシング古事記」のサイン入りLP。
ホール客全員とのジャンケンで時間かかるだろうな、と思ったら
なんと森山さんが何度も何度も全員を勝ち抜いてしまってやり直しの繰り返し。
「あの人は勝負事に強いんだよ」とは隣の坂田さん。


いよいよ二部で参加。
ホーン隊が参加でど迫力、水谷さんのコントラバスでドライブ感もスペードも上がる。
多分多くの人たちには「あのチューバ誰?」ですね。
森山さんの、思いっきりやってください、の通り、思いっきりやらせてもらいました。
前後の脈絡もクソもない。ぶっ飛ばすというよりも自分が吹き飛ぶ。


森山さんのMCでも聞かれましたが
「何故チューバでジャズを?」
「ガキの頃から山下洋輔トリオ聴いてましたから」
「変な子供だなあ」とは山下さん。


tuba、吹奏楽、つまんなかったんだから仕方がない。
楽譜のない自由に憧れて、
なるべく「普通じゃない音楽」だけを探した中に
「日本初(発)オリジナル・ジャズ」として
山下洋輔トリオがあった、と思っていた。
こんなのジャズじゃない、デタラメだ、って言う人もいたと思うけど、
そういうのしか引っかかってこない。
自分も全然わかんない、
でも「わかる」ってなんだろう。
「わかる」よりも「知りたい」。


楽器はじめたときから、お前は駄目だ、ムチャクチャだと言われ、
もっとムチャクチャだと思うものを探した。
坂田さんがMCで「俺はウソで固めた45年」って言ってたけど、
tubaはじめて32年、ダメだデタラメ無茶苦茶だって言われたのを続けて、
あの頃聴いた人たちと同じ舞台に上がった。
そんなこと、夢にも思ってなかったよ、俺は。


それにしても坂田さんのプレイはすごい。
たくさんご一緒させて頂いてきたが、
実はこういう曲(ジャズ)のある上で徹底的にやったのは
もしかしたら初めてだったかもしれない。
もうね、なんだろ、コード進行とかなんか決まりごとのある上で
そういうヘッタクレもない、法則で言えば合うはずのない音が
あのスピードで繰り出されて、
それが全体と聴いていても、違和感がないの。
無茶苦茶だけど、無茶苦茶に聴こえない。
僕のはまだまだ無茶苦茶に聴こえると思う。
まだまだ、だ。


ともあれ、違和感なら任せてくれ。
誰あれ?から、何あれ?


人生でまさかやることになるとは思ってなかった難曲「キアズマ」
(前からやっても後ろからやっても同じ音の曲)
ソロは二人タッグでやり合う形でtp,as、ts,tbの次に僕は水谷さんと低音バトル。
やらせていただきます、思いっきり。
サウンドの方には「思いっきりリミッターかけてください。音量で機材が壊れます」と言っておいたので大丈夫。
生音爆発音量。
水谷さんもグワングワン。


背後から山下さんの笑い声が聞こえた、と思う。
やった!と思った。
お客さんの反応も嬉しいが、
自分のプレイで共演者が笑ってるのは何故だかとても嬉しい。
フラフラになるまでやってピアノに渡す。
(後で水谷さんに「高岡のせいで指がイカれそうになった」「横板が割れた(本当)」と言われたけど、違うでしょ!水谷さん、凄かったもの)


本編を終えたら、「どんみなしんit don't mean a things」
(スイングしなけりゃ意味ないし、って書いてあった)
オーラスは坂田さんと山下さんが抜けた編成で井上淑彦さんの「ずっと…」
リハを重ねて、中路さんの一人メロディから僕が重なってデュオ、皆さんが入る。
感傷的になると吹けない。集中。
最後の音が終わった。


片付け、着替えロビーに出る。
今日は遠くから古い友人やなかなか会えない友人たちが来てくれている。
誰か会えるだろうか。
一人、半ば呆然と立ち尽くす長身の男、イーノがいた。
もう何年ぶりだろう。
同世代のトロンボーン吹きで、僕の活動をいつも我が事のように喜んで応援してくれている。
遠くから車飛ばして駆け付けてくれた。


胸いっぱいで今は言葉にできへんわ、ほんまにありがとう。
って言われて、
こちらこそ胸が詰まる。
ほんまにありがとう、おおきに。
くるとこまできたんちゃうの、って言われたけど、
いやいやまだまだ、いくで。


移動の車の中で、
山下さんと色々と話した。
「おかしなガキ」が何故山下洋輔トリオを知ったのか、
格闘身体表現者トマツさんとのこと、
いろいろ。
実は、山下さんと一緒に音を出すのは、これがはじめではなかったのだけど、
あの時は有象無象の中の一人で、
ちゃんとやったのは今回が初めて、ということで、
それは言わなかった。


そして中路さん、
自分が初めて自力でチケット買って観に行ったラテンコンサートは
中路さんがかつてやっていたバンドでした。
昔やってたことの話って、誰しもちょっと恥ずかしいから
申し訳ないけど、でも仕方がない。
大好きで聞いていた。
22,3年前に天保山のイベントで演奏していてちょっと飛び入りしてくださったのも思い出。


前夜に坂田さんと森山さんが、
長く続けていると、こんな事もあるんだねえ、面白いねえ、って話し合ってて
この中では若い部類に入る僕は、
この先やってて、どうなるんだろうと思うことが未だによくあるのだけど、
僕もまだ続けていて、いつか何かあるのかな、
と少し、思う。
亡くなって続けることができなくなった井上さんの音楽は、
共演者と聴衆の中に、そして曲として残った。
何かを残すことに全く興味のない僕は、
おそらく何も残さず消え去るだろうけど、
続けることでしか、何か、はないかもしれない。


持っていたものは、もう何も無いけれど。


忘れがたい一夜になりました。
ありがとうございました。
ずっと、もっと、いきます。