kuruwasan/la trance formation@Nuits du Paradoxe- Ecuries

あーまた朝からたたき起こされて、勘弁してくれ〜。
でもグレッグパパのあの笑顔と声だとまあしょうがないか、となる。
起きて飯。もろもろ。
洗濯が溜まっているのでコインランドリーへ。
あいかわらずこちらのランドリーの使い方はイマイチよくわからないけどなんとか。
ワタンベから電話があり今晩やるトランスフォルマシオンの確認をしたいということ。
戻ってグレッグに伝えると、また〜って言われた。
毎日リハだもんなあ、すまんす。
でもワタンベ初めてだし、曲が難しすぎるのよ。

前にもどこかに買いたがベルギーでのリハにはほとんど楽譜が使われない。
日本だとありえないくらい難しい曲もみんなリハ中に耳で覚えてしまう。
こちらにくると耳も腕も鍛えられる。
音楽って、まず音から来るものだから当然といえば当然。
日本人は書いて記憶する民族だそうだ、なのでこういう空間的な物事の記憶力が総じて悪い。
欧州は紙の普及自体が遅かったから、空間把握記憶能力が良いらしい。


ワタンベ大苦戦。
しかしここで一つ逆転があった。
昨日の日記で書いた出来なかったリズムができたやつ、あれ実は僕が最初に取っていたリズムで
正解だったとのこと。
がちょ〜ん。なんだよそれ〜と思いながら自分のリズム感が正しかったことで結構嬉しい。
けどまた頭の中を入れ替えないといけなくて大変だ。


早めに集合して車2台で出発。1台はジョアオから借りたものだ。
途中で止まったガスステーション、おお。

1時間強でついたリエージュ、久しぶりだ。
リエージュはフランス語圏ベルギーでは最も大きい町のひとつ。
かつては炭鉱や工業で栄えイギリスの次、世界で2番目の産業革命をベルギーにをもたらした
いまは落ち着いた大学町。
落ち着いてないか、ベルギー一の酔っ払いの町だ。
かつては異様な盛り上がりを見せて、数々のアメリカジャズマンが引っ越してきた。
チェットベイカー、ドンチェリー、変わったところではマーヴィンゲイもよく来ていた。
(ジャンキーが多い・・・)


はじめてきたのは2005年渋さで、それからマチューたちとの大ベルギーツアー日本橋
ロッコのトランス・グナワにじかに触れたのも、その家に泊まり共演したのもここ、
ボリショイズのパンクライブモロッコバー、子供巨人の芝居、チリコミュニティー
セッションバンドに飛び入り、パンクライブハウスに泊り込み、いろいろやってきた。
馴染んだ町だ。

久々再会のトシさん、日本人男性。
2年前にここのラジオ局に出演したときにフランス語→英語→日本語の通訳の
英語から日本語のパートで来ていたのだがあまりにシャイすぎてどもりまくり、
しょうがないから僕が普通に英語でこたえていたら
「アンタ英語しゃべれるじゃん、僕意味ないじゃん!」と本番中に叫ぶ人。

なんできたの、と聞くと、市場歩いてたらお前日本人だよなあ、来いって言われて。
そんなあほな。
これが縁で仲良くなったトシさんは絵描きだ。
ベルギー人のパートナーと4年前にお別れ遊ばしてそのまま滞在。
こちらにはかなり長く住んでいるらしいが、日本人との付き合いはない。

「だって、来てるビジネスマンとか、つまんないじゃん、なあんにも話すことないよ〜」 だって。


そこにやってきた日本橋メンバー、柄の悪い大阪弁を話すパンクバンド、
存在自体がフリーキーはな若者劇団、さらに謎の人種混合ベルジャン勢。
「こんなアホな日本人がいたとは!」とおどろき喜んでくれた


さて、会場はかなり大きいクラブに隣接した広いスペースでテーブルや椅子、バーが有る。
なんだか展示もしていて反体制のようなエロティックコメディのようなものがたくさん。
 
 
簡易なステージにセッティングして食事。出前のピザ、チーズやアーティーショーがうまい。
開演の8時頃になってもムチャクチャ人がいない。
今日はサンニコラの日、サンタクロースの日だ。
欧州ではこの日に贈り物をする。
土曜日だしパーティーに流れているのかなあ、とか思う。


かなり待っても人がすくないのだがクルワサンから始める。
ブラジルに旅だったジョアオの代打でワタンベ。
うーん、なんだかもやもやするなあ。はっきりせん。
とりあえずやってみよう、というような安易な音の選択と低いテンション。
お客に飛ばさんかい、とひとり気を吐くが空回り。
サクっと終わらせて休憩。


ちょっと強めの酒を飲んで休み、考えてクルワサン2部は僕は抜けることにする。
出したい音がとてもじゃないが思いつかない。ワタンベのせいではないがジョアオがいないと音にならない。
僕の必要性を全く感じない音だったので、抜けた。
でソファに寝転んで聞いてみた。
僕がいないせいかわからないけどさっきより気合入って良い音してた。
なんだこれでいいじゃん。不在も良いプレイになる。
よかった。

さらに休憩して歓談、なんだかんだすると人が増えてくる。
知っている顔も増えてきた。
さあなんだか人が増えてきたというよりは酔っぱらいが増えてきたじゃないか。
ここで一発アフロマグレブトランスバンド・トランスフォルマシオンの出番だ。
やっとスイッチの入ったワタンベの大音量とハディの素晴らしいパーカッション、
ジョヴァンニのキーボードがうねり僕とグレッグはステージから降りて前で踊りながら演奏しまくる。
ああ、マイクが欲しい、という大音量の中、生音でベースラインを吹くのはひたすら大変なんだが
気合を見せる。
この快楽は昔やっていたニューオリンズバンドや渋さ知らズなんかで吹いていたものに近いが
もちろん現在進行した今の感じが非常に楽しい。
とにかく全身で吹きまくる。内向きにインプロしてるのとはこういう場では付き合ってられん。
ひたすら客に飛ばしまくる。強くておもろいことしたら、喜ばれる。

 
やればやるほど客がくる、遅いぞリエージュ人、4時間以上遅い!
が盛り上がりは最高潮。友人ヤネックが得意のカルカバで飛び入りもした。
飲んでも飲んでも全部汗で出て行く酒。酔わずに醒めていく熱い脳みそ。
楽しかった。
あちこちに煽られて気がつけば気が狂ったような音量で1時間23分も吹き続けていた。
ホットリップだ。しかし気持ち良い。
終わった後客から個別にアンコールをたくさん受けたが丁重にお断り。
あんたら来るの遅いし、もう吹けんくらい吹いたんで。
今度はもっと遅くやるよ。メルシー。

隣のクラブはかなり人が入っている、それを横目に片付け撤収。
帰りはパクヤンらの車に乗り込む。都合1時間。
途中で電話がありパクヤンがキーボードを会場に忘れていたとのこと、グレッグ回収で一安心。



帰る前にトシさんが、
「僕は君らの事も好きだけど、ちゃんと君らの音楽が好きだから来たんだよ」といってた。
この言葉も深い。
実は僕の父とかなり近い年齢のトシさんだが、友達だ。
いい顔してるんだ、とても。
僕はいい顔しているおっさんが好きだ。
僕よりもたくさんの世の中を知り通過してなお、いい顔できるおっさん。
日本にはもう帰れないよ、という。 そうだと思う。
トシさん、いい顔できないよ、ここにいてください、会いに来るからさ。