録音/パーティー

毎度変わらぬ昼前に起きて朝飯。
毎日同じ飯だがまったく飽きない。
寝坊したグレッグはあわてて指圧のレッスンに行く。
そういえばこちらで誰かが目覚ましをかけているところを見たことがない。
僕は在宅でブッキング。日本には電話もかけることはないので全部メールで。
まるで釣りのようだ。竿をたらしかかるのを待つ。結構良い釣果。
2月にはドイツからデュオが、3月からはパクヤン、グレッグ、ジョアオと僕のクルワサンが来日する。
早めに手は打っておこう。


4時前にグレッグとギョームの家へ向かう。
今日はトリオの試し録音だ。
グレッグのレコーディングセット持参、歩いていると通りすがりの友人たちが
「旅行に出かけるのかい?」という見かけ。
エレベータなし5階(実質7階くらいに感じる)に会談であがると二人とも息が切れる。
セッティングを済ませたらまずは手慣らし。
サウンドチェックのはずがギョームは没頭して演奏して結構ちゃんと録音になる。
グレッグが各種チェックしながら演奏と録音。
たまに外から救急車のサイレンが聞こえるがこれもいい味わいだ。
演奏は基本的にものすごい微音。ドラムの時にはダイナミクスはものすごい増減。
ゴングの弓弾きは複雑な倍音が多数のメロディーのように襲い掛かってくる。
グレッグも驚くとてつもない極微音で僕は演奏する。
いい録音だったと思う。

ギョームが夕食を作ってくれていた。
こちらでは食事の定番、タジンとクスクスだ。
タジンはなんか日本でも今ブームだとか、知ったことじゃないが。
日本で食えるのなんかたかが知れてる。量も少ないし。
ギョームのタジンは野菜と豆と羊肉、クスクスには黄金レーズンが入っている。
ものすごくあっさりしているがうまい。久々の羊肉の塊がうれしい。
そしてみんなものすごい量を食う。僕はここではあまり食わないほうだ。
そうこうしているとギョームの友人たちがやってきて食事に参加。
こちらではみんなよく家を行き来する。日本だとこれもないなあ。

食後に一人、ブッキングの案を練っているとグレッグが悲鳴。
どうもpcがクラッシュした模様。今日の録音が見つからない、と叫ぶ。
まあそんなこともあるさ。また取り直せばよいし。
落ち込む彼を慰めて、次へ出発。
なんでもグレッグのお父さんの家でチベタンボールの交流会のようなことをやっているらしい。
以前にシャルロワの実家にはいったことがあって、そのときのお父さんの建築超人ぶりを見ていたので
ブリュッセルに家に行くのは楽しみ。
チベタンボールには別に興味なし。
家に上がるとパパのガールフレンドのマリアが迎えてくれた。
リビングはいきなり超豪華だ。
おっそろしく趣味が良い。これも全部パパの自作か。
奥の広い部屋に行ってやはり絶句。
詰めれば200人は入るだろう日本だと3階吹き抜けくらいある、これはもはやホールだ。
マリアはハープ奏者らしいのだがハープが10台近くもおいてある、これも絶句。
ろうそくの明かりを囲んでチベタンボールをこすったり叩いたりする人たち。
日本みたいに気味の悪い癒し系や腐れヒッピー、カルトにセクト、半病人の集いではなくて
ごくごく普通の人たちが遠いアジアに何か期待してか興味をもってやっている感じ。
それほど気持ち悪くないが別に良くもない。
マリアが先導してハープを弾いたりいろいろしている。
僕とグレッグも一応参加ということで微音を吹く。
別にどうということはないので僕は途中から休んでボーっとする。
いかん、眠い・・・。まさかこれが癒しか?癒されてるのか俺?
タジン食べて満腹でここはとても暖かくて暗くてキュイィィィィンとかいっててボーっと眠い。
おお、これが癒しの境地か!

とまあ冗句はさておき終えてマリアに食事に誘われるが今食ってきたところなので断って
(ものすごいうまそうないろいろ、グレッグパパはベルギーでは有名な芸術家で名士だ)
いったん家へ。
グレッグはpcに再トライするとなんとかファイルをレスキューで来た模様。超ご機嫌。
ギョームもやってきて連れ立ってパーティーへ出かける。
もう日記には何度も書いたが、ここブリュッセルでは週末はどこかで必ず、というかそこらじゅうで
パーティーをやっていて、気軽に参加できる。
たいていは個人宅で、そうとは信じられないような音量で音楽を夜通し掛け捲り、
みなは持ち込みの酒で飲みまくり踊りまくり、男と女は出会いまくり、
時には生演奏や大セッションが繰り広げられる。


しかし歩くの早すぎるぞ二人とも。
日本だと僕も早いほうだが、ブリュッセルっ子は異様に歩くのが早い。
グレッグは多分この町でいちばん早い。身長が2m7cmもあると体のほとんどが足だよ。


夜0時近かったが、音量で分かった。入り口で何かもめているがスルーして中に入る。
そう広くはない(こっち基準で)部屋の中にごった返す人々。PA入ってDJががんがん演奏している。
窓の外の庭にもたくさんの人人人、酒酒酒。

どうもさっきの揉め事は警察だったみたいだ、近隣の苦情、そりゃそうだ。
しかし家人は窓を閉めるだけでそのまま続行、聞いたら一回くらい来たくらいで警察の言うことなんか聞いてられるか、
ということで、もっともだが、これもこちららしい話。
会場には見知ったなじみではパクヤン、ジョヴァンニ、マノロ、リン、ジョルディ、一緒に来たみんなや、バーで出会う顔もちらほら。
みんな別々の口コミ情報で来ている、この辺がブリュッセルだ。
DJに合わせて踊るのは興味がないので酒を漁る。
日本では高価なベルジャンビアも適当にそこら辺に転がっているから飲み放題。
シャンパンもワインも何でもござれ。いただきます。


DJが突然ストップしてなにやら楽器を持っている人が増えたのがもう相当遅い2時ころ。
楽器持ってきたからには、何が何でも吹くぞ、もう。
スネア、フロアタムがリズムを刻み、バスサクソルン、バスクラ、アルト、テナー、トランペットなど
生音でファンファーレ(ブラスバンド)のようなセッション。
こちらでファンファーレやっている人はすぐ分かるのだがどれもアマチュアらしい音。
ジョルディ、グレッグと太鼓たちで扇動していく。
太鼓たちも解散してもわれら三人だけでどんどんやっていく。
DJがなにかしたがっているが、とにかくわれらで盛り上がる。
ああ、吹いた吹いた。酒だ酒。


グレッグはこのあたりからパーティーモンスターに変身して裸になって踊り始めた。



僕は表で顔を冷やしながら飲んでいると、一人の男が話しかけてきた。
何でも僕を日本で見たことがあるらしい、数年前、上野水上音楽堂で渋さとブラックライトがやったとき。
マジ?
渋さのこの曲が忘れられない、と口ずさむのはナーダム
こっからいろいろと話をする。
人ごみはさらに増えてきてもみくちゃになってきた。
いろいろな人たちに話しかけられる。


何時だか分からないけど相当いい時間になって退散。
グレッグと火照りを覚ましながら家路へ。お茶漬けを食べて寝る。