オフ

5連夜ライブの後のオフの日で。
数ヶ月前から楽しみにしていた大野松雄氏のコンサートに行ってきた。
自分の東京ライブの予定よりも、欧州に行く前から押さえていたこの日。
大野松雄、はて、という人には、分かりやすく言えば「鉄腕アトムの効果音の作成者」
この世ならざる音、宇宙の音を追求し続けた御年78歳、人生初ライブ・・・。
いかねばならない。誰も想像がつかないコンサートだ。


場所は草月ホールということで早めに入ったら草月流の生花でも見れるかと思ったらなかった。
一癖もふた癖もある客たちの顔。老若男女勢ぞろい。


1部は上映会(以下抜粋)


■上映 大野松雄の電子音響による短編映画傑作選
・科学映画 『血液−止血とそのしくみ』(1962年/カラー/26分) 
 監督:杉山正美、二口信一 デザイン:粟津潔 解説:川久保潔 制作:桜映画社
・アート・アニメーション『潜水艦カシオペア』(1964年/カラー/6分)
 製作:真鍋博 原作:都筑道夫
・アート・アニメーション『追跡』(1966年/カラー/3分)
 製作:真鍋博 原作:星新一
・ドキュメンタリー『土くれ―木内克の芸術―』(1972年/カラー/17分) 
 文部省芸術祭記録映画部門最優秀賞
 脚本・監督:松川八洲雄 プロデューサー・撮影:楠田浩之・喜屋武隆一郎
 音楽:木下忠司 制作:隆映社


もうこれ終わった時点でおなか一杯。
なんかいろいろ賞を取ったり学会のサポートで作ったりしていたらしいが
どぎゅーんしゅわしゅわしゅわどかーんぴーひゃらららとテープ加工による音響の渦。
時代とはいえ、こんな凄い音響が真面目一徹の世界で使われているのにはいまさら驚く。


2部(抜粋)
ライヴ 《a point》 《Yuragi ♯8》
《a point》 3面スクリーンを滑走する映像と多元立体音響の躍動するコラボライヴ
《Yuragi ♯8》 空間を浮遊する「音」のきらめき、よせては返す「サウンド」の波
        アナログとデジタルのエレクトロニック・サウンドがうみだす「不思議」の空間
大野松雄(ライヴ・エレクトロニクス)
由良泰人(映像)
金森祥之(音響デザイン)
遠藤正章(オペレーター)


最初のa point はすでに作成された映像と音響のコラボ作品。
現代版の音になりつつもどこかやっぱおかしい。
ビートも多用されテクノのような場面も多く音の波に洗われた。


次のyuragi、これが御大人生初のライブエレクトロニクス。
固唾を呑む観衆、緊張感が走りまくる。
大野さん、いたってリラックスした様子で内緒話のように音響デザイナーと オペレーターと
相談しながらご本人はオープンリールのテープレコーダーに手を乗せ
きょ、むきょきょ、むきょきょきょきょーとこする。
テレコにはある単一の周波数の音が一つ入っているきりのようでミニマルというかなんちゅうか、音の種類は極端に少ない。なんじゃあこりゃあ。


最後のところでなぜか突然照明が白い点をつくり、それが床から壁を走りUFOのように
天井に飛び立って消えて終了。


終わったらご本人からご挨拶。
「このたびはこんなヘンチクリンなものを聞きに来てくださって・・・」
ここら辺から俺は笑いが止まらなくなった。
物凄くラブリーな人だ。参った。
本編は終わったものの、70年大阪万博で何か一儲けをたくらんだ人からの依頼で作ったというソノシート音源を聞いてください、という。
シンセもなんにもない頃にテープだけで作ったという、動物の声だけで作られた「八木節」


ここで大野さん一言により、このコンサート最大の衝撃がお客を襲った。


「1時間半ありますのでちょっと辛抱して聞いてください」


このときの会場全体を覆った無言の緊張感は計り知れないものがあった。
すでに2時間以上、この世ならざる音を聞きまくった後に、1時間半。
腹をくくるしかない。どうしても耐えられなくなったら、途中で帰ろうとも。
はじまった。


にゃん わん きゃんきゃきゃきゃん わーにゃにゃばばばわ わんちゃちゃきょん。


笑うしかない動物の声・単音による八木節。大いに笑った。


あれ、終わった?


大野さんいわく「すみません、1分半の間違いでした」


場内大爆笑。たまらんわ、この人。
おまけに退場の音楽が「アトムのテーマ」
そーらーをこーえてー、で帰っていくなんてずるいわ。


いろんな意味で大満足のコンサート。
昔の偉人だからとかではなくて、手間をかけて音楽、いや音響を作っていた歴史的職人の
足跡と今を見聞きできてよかった。
この模様は10月にドキュメンタリー映画になるらしい。楽しみだ。


終わったあとは以前から目を付けていた赤坂のソルロンタン専門24時間営業の店へ。
スープと海苔以外のたくさんのおかずとご飯が食べ放題。とても美味い安い。


さらに東京タワーのふもとにある隠れ家のっような自然派ワインの店で
自分の知るワインとはまったく違う世界のものをご馳走になる。
会話が弾みすぎて物凄い深夜になってしまう。