最後の日

朝起きて独り昨日の晩餐の残りの羊赤ワインスパイス煮込みを食べる。
濃い。朝からなんちゅうもんをくっとるんだとわれながら思うがこのタイミングしかない。
元気が出る、今日は最後の日だ。


雑事を済ませジョヴァンニらに家によって荷物を引き取る。
ちょうどアレクサンドラとジョヴァンニのレコーディングが始まるところ。
彼女とはこれが最後のタイミングなので挨拶、次は共演しましょうと約束。


3時にみくさんと待ち合わせてスーパーへ買い物。
今晩のディナーの準備。みくさんの日常の買い物と僕の明日からの買い物も。
物凄い重さでみくさんちまでふうふう言いながら持っていってお茶して一段落。
一度グレッグんちに戻り、パッキングの続きや楽器の整備。
次11月に帰ってくるまでこの楽器を吹けない、ピストン回りの掃除などをして
ひとしきり吹く。10数年もハードに過ごしたこの楽器が一番自分の音がする。


そうこうしているとグレッグが帰ってきた。ベルギスタンのスペイン旅終わりだ。
スーザのマニュもいる。旅のことをきくと余り芳しくなかったらしい。
旅の片付けと軽く飯を食う彼を残して再びみくさんちへ。
今夜の料理の手伝いだ。僕は主に自分の担当を。
すなぎもを醤油としょうが、赤ワイン玉ねぎなどにつけてマリネしておく。
グレッグの家であらかじめスパイスを調合しておいて(香りだけかいであてずっぽうだけど)
借りて持ってきた圧力鍋で羊を煮込む。赤ワインニンニク玉ねぎスパイス、隠し味に蜂蜜。
弱火で煮込んでいる間に先にみんなで手巻き寿司パーティーだ。
アントワーヌと楓もいつにないお客さんの闖入で楽しそうにしている。
大人たちはみくさんとクリストフ、ジョヴァンニとパクヤン、いつもお別れパーティーが盛大になりすぎていた、遅れてグレッグも登場して今回はこうやって小規模に。
上等な海苔でくるむ手巻き寿司はとてもおいしい。クレソンやほうれん草、ルッコラ、サーモン、卵。
ジョヴァンニとパクヤン、グレッグは大喜びだ。
続いて僕の砂肝炒めをぱっと作って出し、さらに羊赤ワインスパイス蒸し煮。
砂肝は居酒屋の味だ、羊はいつもより多めにスパイスを使いしっかり煮たのでとろとろのシチューみたい。
我ながらおいしい。


遅めにヤニックとなっちゃんとコーシさんもやってきた。
みんなで乾杯、会話も進む。
pcにソフト入れてカラオケ大会。
面白いのは選曲した人はばね入りおもちゃのマイクを持って歌う、しかし全曲全員の大合唱なのだ。
これでは誰が歌っているか分からない、日本のカラオケより楽しいや。
ジョヴァンニとクリストフはポリティカルなスタンスが似ていて微妙に違う、そこにコーシさんが加わって
こりゃあいい論客たちだ。
ここにいるのはベルギー人日本人中国人イタリア人、ブリュッセルだなあ。
ここを去るのは悲しいかい、と数人に聞かれたけど、なんだか変な感じだ。
明日帰るという実感がまったくわかない。来週この街の道を歩いていないというのが変な感じだ。
ここにいると現実感がある。
僕のまわりの友人たちは僕が日本でどういう風に暮らしているか知っている。
タフでハードな毎日だ、ストレスも多く悩みも多い。
ここにいると僕は5歳の頃のように笑って暮らしている。
僕が嫌う、僕を縛り付けるものがない。
そして音楽がある。とても大事な人たちがいる。魅力的だ。
また11月に帰ってくれる、これが希望だ。



かなり遅い時間までお邪魔していてそろそろお暇。
みんなと再会を約束し元気で、と。
ここにもかけがえのない友達たちがたくさんいる。
ジョヴァンニたちの家に立ち寄り残していた作業の続き。
ついに50枚のCDのコピーを終えた。
気がつけばもう3時、早朝起床なのでそそくさと家に帰りパッキングのチェックをして3時半に就寝。