セッション@hothouse gent

昼あたりから独りで中心街へ出かける。
サープラスな店を見つけて入ってみる。
服は普通にカジュアルな新品中心で特に興味もなく、
作業服コーナーの雨具が気になる。
いまはそうでもないけどここは雨が多いのだ。
もうひとつ気になったのはかばんコーナー。
大きなかばんがたくさんある。しかも安い。
日本では安い大きなかばんがあまりない。
大荷物を持って移動する、という概念自体に乏しいのだろう。
僕は常に大荷物と移動することが宿命で、収納はいつも気になる。
ヨーロッパの人たちは移動が多い。
祖国と違う国に引っ越す人たちも多い。
だからこういうところで便利なものが見つかるのだろう。


目当ての楽器屋もなんとかみつかる。
ちなみにここには金管楽器屋はほぼ皆無。
欧州だからアフリカやアラブの打楽器は日本より多いはずだと見当を付けて。
それほど膨大ではないが見慣れないものがたくさんあってかなり目移りする。
笛類もかなり良い。
今回は経済的に今までで一番慎重になっているので衝動買いしないようにそそくさと立ち去る。
 

珍しくて電話が鳴った。
グレッグからだ、今晩空いているか?という話。
空いている、きくとライブが出来そうらしい。
OK,演奏の機会は多ければ多いほど良い(こともない場合もあるか)。
途中で見かけたアナログ機材がたくさんあるオーディオ屋へ。
アナログテープ系のものがたくさんあって目に楽しい。

ベルギーではまだまだテープもレコードも現役だ。


家に戻りなんだらかんだらして夕方にグレッグの家へ。
ほどなくパクヤンとベルギスタンの打楽器奏者ハディもやってきた。
今日はキャンセルになりそうなライブの穴埋めで普段はブラスバンドがやっている
セッションつきライブをわれらでやることになったらしい。
急造のバンドづくりのリハ。

ベルギスタンのレパートリーやフェラクティのいくつかをさらって
急いで車に乗って出かけるのはゲントへ。


グレッグはご飯を作りかけのところだったのでそのパスタをボウルに盛って乗車。
道中みんなで回し食い。変なの。

ゲント市内特に会場の近所が工事のため封鎖されていてなかなかたどり着けないが何とか到着。
ここHOTCLUBは以前にジョヴァンニのコンサートで来たことがある。
「演奏中は完全な静寂を」というコピーがベルギーでは珍しい。
一度やりたいと思っていたところだ。

後のジャムセッションのために店員がドラムを用意する中我らもセッティング。
ピアノのあたりにパクヤンはオルガンとピアネットなどを準備、
グレッグはゲンブリとサックス、ハディはダルブッカ、ジェンベなど。
簡単に音だししたら少し休憩、ここはデリリウムというビールが生で飲める。


お客さんは小さな店になんだか一杯だ。
喋りたい人たちは表のテラス席にいけるのも良い。
当然チャージはただだ、こちらでは当然。


グレッグは基本的にバリトンサックスで僕とベースラインをダブルで演奏、
ハディのジェンベは初めてだがかなり達者、きいたらこっちが本業なのだそうだ。
複雑に重低音が絡みつくトランシーな展開。
聴いているほうはド迫力だろうけどこちらはかなりハード、
ずっとラインを大音量で吹き続けてしかもソロは長尺で終わったらそのままラインに戻る。
これがえんえんと続くのだから。
しかしここまで思いっきり吹き続けるのも久しぶりで楽しい(苦しい付)。
パクヤンはこういうセットに不慣れで、頑張れ!


1時間を過ぎたあたりで知った顔が見えた、バルトマリスだ。
ゲント在住ベルギーのトップトランペッター、以前共演したことがあり顔も良くあわせる。
言葉を交わす前に楽器もって入ってきた。
フェラクティの呪術的な曲、やっぱ低い音ばかりだと僕は飽きる、高音が入ってきてうれしい。
ちなみにここベルギーは金管楽器(サックスは木管楽器、念のため)奏者が結構少ない。
いや、アマチュアブラスバンド(ファンファーレ)はものすごくたくさんあるのだがプロが少ない。
ジャズや即興シーンでも同じく少ない。
したがって彼は非常に多忙で、それによって僕も珍しい存在だからここにたくさんの依頼がある。
多忙すぎてバルトは今日のセッションの主催に参加できないかも、だったらしい、なのでわれ等の演奏。

終わったら挨拶を交わしすぐにジャムセッションの用意。
こちらではこうやってライブの後にセッションが用意されていることが多い。
これで多くのミュージシャンたちが出会うきっかけになるのだ。
もちろん良い出会いばかりではないけど。
面白いのはたいていスタンダードでもなんでもなく、決め事なし。
この日もそうで、ドラマーが入りベーシストがグレッグのゲンブリを借りて鍵盤弾きがパクヤンのセットを、
チェリストの爺さんやフリューゲルのおっさん、パーカッションの若者なども参加。


金管が珍しく多くて(バルトも珍しいって言ってた)いろいろとバリエーションに飛んでいて面白い。
まあ基本的にリズムグルーブものっぽい感じだけど。
チェロの爺さんはずっとなんでも勝手にギコギコ弾いていて面白い。
ゲンブリ担当の男は最初はいいかあとおもったらやっぱ全然駄目、のわりに手放さない。
鍵盤男は自己陶酔型。フリュ−ゲルのおっちゃんはジャズな感じだがなかなか、
グレッグはアルトに持ち替えたり、ステージはにぎやかだ。
バルトと演奏するのは非常に楽しい。腕は勿論良いのだがテクニックだけに走っている感じではなく
まわりを良く聞いて何をするかちゃんと選んでいる。
ソロもジャズっぽいのだが、なんでも自分の言いたいことを通すタイプのものではなく
なんか少しフラジャイルで好みだ。


途中一曲だけステージ降りて休憩、グレッグをそそのかしてゲンブリを持たせる。
やっぱちゃんと弾ける人がやったほうが良い、ドラマーも交代しいけいけでゴー。
この瞬間がセッション中では一番面白かった。
まあリズム一発ものなのだが、違う要素が混じることなくそこにあって僕は好みだ。
(後で聞くとグレッグはドラマーに不満ぶうぶうだった。彼はモロッコのリズムをつかんでいない、
とのことだが、それはそれで面白ければ僕はよいと思う)
ガンガンに盛り上げて終了。
終わったら2時くらい。お客はパンパンにいて盛り上がっている。
完璧な静寂、よりこういうのは盛り上がったほうが面白いよなあ。
お客にも良く受けてよかった。
店員の女の子が「あなた最高に良かったわ、でもあなた完全に狂ってるわ」って言われた。
はい、そうです。
CDも少し売れてカウンターにいたやけに印象的な長身のおかまちゃんにも大好評。


バルトといろいろ話す。僕よりはずっと年上だと思うがヴァイタリティ溢れるナイスガイだ。
ものすごい流暢な早口で話すので聴くのが大変だ。
今後も演奏機会を持とう!ということで意気投合する。
この日はここぞとばかりにデリリウムをたくさん飲んだ。久々に軽く酔っ払う。
車に乗り込んで一路ブリュッセルへ高速道路を飛ばす。
みんなの家を回って最後にわれ等の家へ、荷物積み込んでほっと落ち着いたら気がついたら5時近かった。
倒れるように寝る。