matthieu,greg,daysuke gigそしてお別れパーティー

僕にしては朝寝坊の10時台に起床。
まだ軽く酒が残っている。
昨夜はとても楽しかったなあ。
着替えが切れたのでランドリーへ行く。


朝ごはんにはここ最近食べているそばの実とレンズマメと野菜類を炊いたものを食べる。
少しスパイスも入れていてあったまる。
今日は最後の昼をここブリュッセルで過ごす日だ。
とはいえ取り立てての何かを自分の記念のためにすることは考えられない。
ジョヴァンニのブッキングをできる限り優先させたい。
ひさびさにみくさんが遊びに来てくれてポルトガルのお菓子をお土産に。
お茶しながら久々の歓談。こういうお茶の時間が人ともてるのも、ここの魅力だ。
みくさんがでかけたら、僕はパルヴィの市場へ出かける。
今日は食品よりものが多いけど目当てのチーズ屋台は出ていて物色する。
安売りの切れ端コーナーで古くて硬いものを選んで、パリミジャーノレッジャーノを所望する。
24ヶ月もののいいのがあるよ、試食するかい、といわれてもちろん、ともらうと
軽く朝食で食べるくらいの切れ端が出てきて思わず笑う。
どうだい、うまいだろう、とおじさんはいうのだが口いっぱいがチーズで言葉にならない。
しかもこれがめっぽううまい。嬉しいなあ。
初めての大人買いをする。
イタリア行ったことあるかい?といわれ、あるよ、大好きだというと
あんたイタリア系かい?とここで何度か聞かれる事を言う。
良いクリスマスを!と笑顔で声をかけてくれる、メルシー!
買い物するだけで気持ちが豊かになるこの市場が好きだ。


他には別に買い物するでもなくふらりと戻る途中に近所のパン屋にいった。
これといって特徴のないパン屋なんだが店主の感じが好きで来てる。
やっぱアラブ系の感じの良い人には弱い。
大きなアラブパン1枚とバゲット1本を買って2ユーロでお釣りが来る安さも良い。
日本に帰ったらパンなんて食べれない。
パン屋から帰るときには必ず歩きながら一口かじる、これがまた楽しい。


昼2時頃にパクヤンと待ち合わせて車でマチューハーの家へ。
パクヤンと彼の会食に便乗して話しをしにいくのだ。
彼女は突然彼のバンドのツアーに誘われて戸惑っていた。
だって、一回も私の演奏聴いたことないのよ彼。
そりゃそうだ。
マチューの思考は普通の考えではおっ着かない。
付き添いできてくれ、というのは結構強い願いだったみたい。
昨年良く通ったあの家ではなくまたはなれたところ。
すごいいいところだなあ。
奥にガールフレンドが寝ているみたいなんだけど外に出てこない。
マチューの手料理はいつも「即興なんだ」っていって出てくる。

ジーが来るということで、米ときのこのソテー、ザウアークラウトにアップルジャム、
トマトの茹でたのにコリアンダーが可愛くついている。
見た目に可愛いカフェ飯みたいだ。
いただきます。
きのこがものすごくおいしい、ちょっとうっとりするくらい。
こちらの市場でよく見るやつだ、焼くだけでこんなにおいしいとは。
パクヤンはおかわりしてた。

マチューが近日リリースするだろう音源を聞いたりいろいろな音楽の話に脱線しながら
仕事の話を交錯する。
2010年、と書かれた世界地図があった。
ヨーロッパ各地とアジア各地に点を描き、これを結んで行う大日本橋ツアー。
アジアの町で彼と演奏するのは実現しそうな僕の夢のひとつだ。
それはそんなに遠い日のことではない。

この夜は急遽マチューの演奏に参加することが決まってた。
さらにマチューは今から子供の学校でフィルムにあわせてコンサートするらしくて
パクヤンの車に便乗してモレンベックで降りて僕らはサンジルへ。
今日は最後の日ということで僕はめちゃくちゃに忙しい。
帰ってグレッグと話して、モロッコ食材屋に寄りたいというと夜の演奏は彼も出演で
車で機材を持っていくからその途中によろう、ということで出発。
途中で毎朝彼が作業をしているお父さんの家を通りすぎた。
入った食品屋は明らかに品揃えが良くて中に入ったら頭がくらくら。

おまけに棚にはアラブの楽器まで売っているではないか。
調味料も食材も本物のアラブものがそろっている。ドライフルーツなどのハルワがすごい。
思わず「殺す気か!」といってしまうくらい魅力的。
こんなところに最後の日に来るのが恨めしい。
何もかも欲しくなる。とりあえず選びに選んで甘いものと食材を少し買う。
干しイチジクやダーツはここらでしか手に入らない。
イチジクはこちらのほうがいいものだ、と交換してくれて親切。
今度きたらここに通うぞ!シュクラン。


車に乗り込んで家に戻り機材を積んだら出発。
イクセルだからすぐ近所だ。
バスウェイ沿いのアートギャラリーで中では展示とレセプションが行われている。
美術は思いっきり門外漢なので好き嫌いでしかいえないが、性的に際どい、というかもうぶっ千切れてる
作品が主で、結構好きだった。
マチューたちがタイにツアーに行ったときに知り合ったアーティストだということ。
感じの良い男性だった。
いかにもこちらの美術関連、という感じで黒人美人ねえちゃんが酒や軽食のサーブ。
軽食のタイ料理がむちゃくちゃおいしい。
チコリの上に乗っているスパイシーなものなど、絶品だ。


マチューもきてメンバーが揃って三人で演奏。
展示のTシャツを配られてそれを着てやる。
マチューはアコーディオンボーカル、例のベトナム無線スピーカー。
グレッグはアンプにつなげたゲンブリとテナーとバリサク。
僕は笛とtuba。
マチューの曲をやる。
ドラムがいない上に低音がやたらに多く、ボーカルにかぶさるので生音の演奏は難しい。
しかしそのなかでできる限りのことをする。
さすが美術関連でベルギー、というか、客、ものの見事に聞かない。
極少数の人たちを除いて、演奏の場所からなるべく離れて大声でしゃべり続ける。
最初は少し腹も立ったが、もう慣れたし、マチューたちとの演奏に集中するうちに気にならなくなった。
それにしてもマチューはずっとこんな音楽に対す無関心が渦巻くベルギーで、一人で活動してきたのか。
どんな逆境の中でも一人歌い続けてきたことは驚嘆に値する。



休憩を挟んで2部は短めにやって終了。
一部の人たちには大変好評だったようだ。
アーティスト本人もにこにこやってきて、この後上でタイ料理作ってもてなしたいけどどう?
と誘ってくれる。
しかし約束のパーティーの時間は迫っていて残念ながら無理。
残念、バンコクで会いましょう、と約束をする。
グレッグはタイ料理が狂ったように好きで、かなり心残りだったみたい。


車で家に戻って、なにやら作業を始めたグレッグを置いて一人でパクヤンのうちに向かう。
ここでベルギー人を待っているといつになったら目的にたどり着くか分からないのだ。
つくともうおなじみの顔ぶれが揃っていて今にも始まるところ。
とりあえず乱立するワインをもらって乾杯。
食事のスタート、ジョヴァンニ自慢のラザニヤはさすがローマっ子、うまいよ!
クスクスのサラダやみくさん持込のまき寿司、これは納豆が入っているのを言わなかったら
みんな平気で食べてた。
フォアグラのテリーヌがこれまたうまいよ。
すごいご馳走だ。
他に用事に出ていた人たちもあつまってきて20人を越えていると思う。
馴染みのみんなも今回であったみんなも、来てくれてありがとう。
みんなと話す。今回会ったことよりももうみんなで次に来たときの話をしている。
僕が来る前に気が早くも日本に行くことを決めたひとたちもちらほらいる。





みんな、ありがとう。


結構酔っ払ってきてふらふらしてきた。
冷蔵庫代わりのベランダにはベルジャンビアが並んでいる。
飲んで話して歌って踊って、終わりがないかのようなパーティ。
なにかやけに強い気持ちがやってくる。
もうここにはいれない。
誰よりも早く退散することを決める。
I go,because I don't want to go.
そういって、お別れに一人で歌を歌った。
生まれてはじめて書いた、歌の曲。
大好きな町のことを歌う、ぴったりの曲。
ありがとう、みんな。さようなら、また5月に。
一人ずつ全員と抱き合い別れを惜しみ、別れを告げた。


すぐ会うではないか、という気持ちはまったく当てはまらない。
僕はここにいるときいつも笑っていれた。
幸せだと臆面もなく笑顔で誰にでも言えることができた。
この気持ちをキープするんだ、といっても日本に帰って磨り減っていくのは目に見えている。
ここにいさえすれば、僕は僕の嫌いなことから遠く離れて、
より幸せにいれるというのに。
それでも僕は帰る。
日本でも音楽がやりたい、やりたい人がいるし大事な人がいる。
あのなんとなく生きれるかわりに精神に過酷な国で奮闘している友人たちがいる。
一緒にやりたいことがあるんだ。

一人グレッグの家に帰る家路、慣れ親しんだこの道を当分歩けないということに
ほとほと心が弱っていく。
家に着きパッキングをあらかた終えて仮眠がてらに寝床についたのは
朝の4時過ぎだった。