バルセロナでオフ

午前中のいい時間に目が覚める。
昨日からマルクのルームメイトの個室に移動していたのだった。
さすがにみんなは寝ているみたいだ。
いったいパーティーは何時まで行われていたのだろう。


全員がおきてそろったのは昼12時半ごろ。
聞くと昨日は、というか今朝7時まであのパーティーは盛り上がり続けたらしい。
ずっとあのテンションが続いていたのかと思うと、もっと盛り上がっていたと。
恐ろしいくらいの元気さだ。
リンはぶっ倒れるまで飲み続け踊り続けニコは途中から意識がなくなりありとあらゆる人が熱狂の渦。


今日はライブのオフでいろいろとお誘いもあるので予定だけでも忙しい。
とはいえまずおきたところなので朝食。
マルクとその彼女とパクヤンと四人で、マルクが昨日市場で買ってくれていたパンハムチーズ。
スペインのチーズ、大好きだ。
子供の頃にこことフランスでチーズを覚えて、帰国後当分チーズが食べれなくなった覚えがある。
まずくてまずくてしょうがなかったのだ。今食ってみると、そりゃあそうだ、と思う。
毎日これが食べれるって、いいなあ。
職人仕事を朝から食べれる嬉しさ。


さらにマルクの友達のラファエルだっけな、も合流してパクヤンの要望もあって海を見に行く。


太陽が明るい!と彼女はご機嫌さんだ。ベルギー人は太陽を切望する。
メトロにのってバルセロナータで下車、ここから歩いて海はすぐそこだ。
通りにはたくさんレストランがあるけどニコはここらには入ってはいけない、という。
観光地だから高いのか、と思ったらまずいからだ、とのこと。
客引きがいるような店は全世界どこも同じだ。
ビーチに出ると、寒くて泳げなくてもたくさんの人がいる。
海と空と雲。そして楽しむ友人たち。
ここでも会話は必需でたくさん話し合った。

売店でtime outという雑誌を買う。
ここに僕らクラッピーミニバンドの告知が載っていたらしい。
たしかにあった、エクスペリメンタル、バルセロナでただひとつの実験的バンドライブ。
別ページにプロフィールあり、パスカルコムラードとの類似性(おもちゃがあるだけでぜんぜん違うけど)
こちらではメジャーなラウル(彼は今回のゲスト)と日本から来たtuba吹き(takaoka daysukeと表記されていた)しかフルネーム出てない・・・。
しかし本当にインプロやオリジナルは少ない、パーティーミュージックの国なんだなあ。


路地を歩いて地元民お勧めの料理屋へ。
今日はたくさんの食事に呼ばれているので軽く行こうということ。
海鮮のタパス(小皿)が名物の店でオーダーはもちろんカタラン人たちに任せる。
食前にマルティニのような薬草入りの酒をもらう、オリーブが2個ついていてる。双方うまい。
なかに魚が入っているのを知らずにパクヤンがオリーブを食べてしまう。
アクシデント、とベジタリアンの彼女は平気な顔だ。
出てきたのはアーティーショー、ジャガイモ、タコの足、イワシ、小さな小さなタコ、ムール貝
海鮮は揚げ物メインだ。



バルセロナのアーティーショーは小ぶりで中心の濃さがすごいおいしい。
ジャガイモはこれでもかというほどニンニクが効いていてピカント。
イワシは脂が少なくあっさりしていて頭からバリバリ。
タコは大阪人には嬉しいものだ。
ムール貝はぷりぷりでマルクが下品なギャグをかます


食事もそうだがここでも楽しむのは会話。
次から次へとお誘いがあるので早く移動したいところ何のだがカタラン人の会話は急には止まらない。
パクヤンと僕だけ時間の進み方が違う。
次の予定は昨日ライブに来てくれ知り合ったパウロという音楽家の家にいくことだ。
昨日の話しでは是非イタリアンランチに、ということ。
サルディーニャ人のもてなしというのがすごく気になるし彼の音楽が気になる。
なんとか出発してマルクたち一行とはしばしお別れ。
ニコとパクヤンと僕は三人でセントラルに向かって徒歩で赴く。
途中でニコの子供の頃の思い出のクリスマスマーケットにいってみる。
カタラン独特の装飾用の品がたくさん並んでいる。
尻丸出しでうんこを垂れている男の人形がたくさん売っていて、これがカタラン流らしい。
そういえば真っ黒の砂糖菓子も売ってたなあ。
マーケットは僕にはそんなに楽しいものではなかった。
装飾用の松のにおいが印象的。これがここのクリスマスの臭いらしい。

中心街の路地をうろうろ歩いてパウロの家を探す。
これがなかなか見つからない、近所の人に聞いても通りが見つからないのだ。
大きな教会の前で彼に電話をして迎えに来てもらう。
着いた建物はなぜかエントランスから階上にいたるまで真っ暗で階段が怖い。
最上階にいくと電灯がついていてほっとする。
彼の名前はPaolo Angeli、僕はいろいろと知識があまりないのでしらなかったがイタリアはサルデーニャ出身の
有名なギタリストだそうだ。
そこらにあるCDはシカゴの名ドラマー・ハミッドドレイクとのデュオライブやエヴァンパーカーとのものなど。
フレッドフリスとはこのフロアでデュオした、とか。


酒を飲むよりも早速彼の楽器が見たいので階下に降りる。
なぜかここも薄暗い、ここ3日電灯の調子がとても悪いらしい。
暗い中みんな手探りで鑑賞。
まずギターがでかい、バリトンギターのサイズでこれがサルディーニャの伝統楽器だそうだ。
それにものすごいたくさんの仕掛があってセットには結構手間がかかる。
ピアノのハンマーが改造されたものがホールの下についていて、ワイヤーにつながった両足の機械式ペダルで操作すると打弦する。
ホールのあたりには小さな弦がたくさん張られてあってモーターで回るファンで持続音が出る。
ギターのお尻と頭にはチェロのパーツが付けられて3弦ぐらいゆるい弦が上部に張られている。



最後にチェロの足をつけて完成。軽くデモで演奏してくれた。
構え方はチェロに似ている、弓を多用して演奏するようだ。もちろんはじいても弾く。
ハーディーガーディーやチェロ、ギターたくさんのヨーロッパの楽器のエッセンスが一度に出てくる。
僕ら3人は夢中で見聞きする。
終わったら質問攻めだ、特にニコはサルディーニャギターに興味がわいて普通のものも出してもらっていた。

これがものすごい音量で低音の伸びもよく、うわ、これは是非生tubaとやってみたいという音。
ニコはメーカーの連絡先をゲットしていた。


ここらへんにもいろいろと彼のCDがあるので全員同時に是非買いたい!と攻め寄る。
ちょっとびっくり気味のパウロにお願いしてあれこれ出してもらう。
僕はハミッドとのデュオやソロワークスに興味がある。
特にみんなが驚いたのは、tessutiという彼のソロCDでplaysfrith&bjorkということ。
フレッドフリスとビョークの曲をこのギターで!
三人で2枚しかない、みんなで奪い合い話し合い。
まずはいくらなんだ、ときくと腰が砕けるくらい安い値段だった。危険だ。
厳選してソロとデュオを選んでいると、フリス/ビョークのCDをなんとプレゼントしてくれた。
ここらでもう分かると思うけど、彼、ものすごいナイスガイなんだ。


階上に上がりおいしいロゼのワインをもらって会話。

この町の話や音楽の話など、尽きることのない話題。
何より明日僕らのライブ@チョコレートカフェに演奏に来てくれないかと切望する。
ちょっと困惑気味の彼、うーん、いいなあ、でもなあ、という感じ。
これより前にパクヤンに聞いていたのだが、彼はここバルセロナに住んでいるがここでライブをしたことは一度もないらしい。
ニコから何度も聞いていたがここはパーティーの町で聴く音楽の町ではないという一面。
何度も書くが、だからニコはブリュッセルに移り住んだのだ。
パウロはライブを進んで探さなくても山のようなオファーが世界中から舞い込んでくる。
無理に困難な場所で奮闘しなくてもよいのだ。それはそうだと思う。
じゃあなんで、ということになると、彼は島生まれ、海のないところには住めないということ。
そして南国であり、人も気持ちもよいバルセロナに彼は住むことを滞在3日目に決めたということ。
いろいろと考えさせられる。
ユーロ圏の人々は本当に気軽に住む国を変えれる。
このことがここ数年のここらの音楽シーンの原動力にもなっていると感じる。
移動とダイナミズムこそが、何かの力だ。


そしてもうひとつ分かったことは、彼は若い僕らに興味があるということだ。
今まで彼はいつも自分より年長のミュージシャンとだけ演奏してきた。
それは偉大な経験だし得るものはものすごく大きいだろうけど、変化を求めるにはやはり自分より若い
ミュージシャンたちのことが気になる、当然だ。
ここの地で大して音楽シーンに期待していないように思える彼がだが、ライブには足繁く通っているとのこと。
そしてやってきたクラッピーミニバンドに大喜び。
インプロも甘いラブソングもパンクも垣根のない僕らの音楽
謎がひとつ解けた、昨日であった彼はいきなり初対面で僕の年齢を聞いてきたのだ。
これはこちらでは非常にまれなことで驚いた。
彼と僕では年齢が3つ違う、クラッピーは全員僕より年下でリンは24歳だ。


有名だとか何とか、関係まったくなく、この気持ちのよい海風のような人柄にひきつけられる。
気持ちのよい暮らしと自分が追い求める音楽へのあくなき追求。
彼のサルディーニャ・プリペアド・ギター(まさに準備された!)は常に形態的にも進化を続けているらしい。
もちろんここに電気的ペダルも使うらしいが、まず機械的/アコースティックであるということ。
ここらへんの哲学にかなり共感する。何よりきわどいバランスで奇形的に美しい。


話は尽きないのだが今度はニコがあせる番だ。
今日最大のイベントはニコのパパの招待による夕食会。
まったく自分の番になるとすぐこれなんだが、ここらへんが13歳、なんてあだ名される所以だ。
明日共演できるかどうかは分からないけれどパウロには明日会えることは確実みたいなのでここらで去る。
非常に充実したよい時間だった。


メトロに乗るときに全員ズルをして乗り込み無事。
joanioで降りてニコ父さんの家へ。もう腹ペコだ。
着いたら最後の準備中、軽く手伝いして軽くネットチェック。
今日はこれないウリ以外のクラッピーバンドメンバーとマルクやニコの家族たちが招待されていて
ニコパパはこの夜のためにかなり奮発してものすごく上質な食材を手に入れたらしい。
究極の空腹の中、皆が集まり乾杯をして食事スタート。



まず出たものについて書くと、
定番パンデトマト、パンが異様にうまい。
チーズや白カビサラミの定番品に加えて、血の入ったソーセージや肉が詰まったものなど。
サラダが数種類、どれも新鮮で個性的な味わい。
非常に強いチーズをオーブンで少し焼いて蓋を開けるように上部を切り取り中をとろとろにして食べるチーズが絶品。
おそらくこれは特選、というハモンイベリコの高級品の厚切りたまらん。
とても印象的だったのはタラのような白身の魚がマリネのようにされていたもの。
強い塩漬けの白身魚を長時間水で戻してから作るこれぞカタランの伝統料理だそうだ。
昔の日本の馴れ寿司を思い出させる手法で、これがうまい。
テリーヌなんて久しぶりで、これなんだか分かるかい、とニコにいわれて食べるとこの歯ざわりと香り、
黒トリュフがごろっと入っている、こんなもんくっていいのか。
気軽にパンに塗ってパクパク食べたけど。


もう無心の夢中ノンストップで食べる。幸せだ。
ニコパパの心づくしのおもてなし、しかも極上食材オンリー。
ビールもワインも地物でうまい。
皿を持ち続ける左手がしびれるまで食い続けた。うまいんだもん。
ニコパパありがとう。

きがついたらふらふらのふら。
〆のチョコレートまでは何とかたどり着けたが最後のアイスクリームはあえなくミス。
しかしもう悔いも何もない。
タバコを吸うチームつまりミュージシャン若い男たちが最上階のテラスに行くというのでついていく。
タバコは苦手だが屋上で気にならないだろうし、火照った体を覚ましたい。
かなり寒いのだがちょうどよい。


ここで気がついたが、昨日の演奏で明日録音のためにベルギーに戻るリンとは最後の演奏だったんだ。
それをリンにいうとお別れでもないのにそれだけで抱き合う。
感謝と惜別は感じたときすぐに行う。
その繰り返しが友情や愛情を強固なものにする。
これは確認ではなくて、非常に新鮮で普通なことだと思う。
日本では友情を確認しなくてはいけないこともあるし、それは困難なことだ。
ここでは相手を確認する必要がない、自分の思いをシンプルに相手に伝えることですべてが心地よくなる。


そろそろお開きの時間。
去りがたきを去り別れがたきを別れる。
明日のライブで会えることの幸運をかみ締める。
ニコパパは僕の頬を撫で抱きしめて、なんとたくさん食べてくれたことか!と大喜びだ。
あのでっかい音のtuba、すごい楽しいぞ、と。
たくさん食べるのがいい音の秘訣です、グラシアス。
前に聞いていただが、彼がニコのバンド仲間を夕食に招待するのはこれが初めてのことだそうだ。
ニコ自身が驚いていたのだから間違いはない。
カタラン人はけしてオープンな気質ではないそうだ。
それだけの何かが、僕らにあったのだろうか、なんにせよ気持ちが気持ちを引き寄せて素晴らしい時間を生んだことに
僕は深い感謝と喜びを感じる。


帰り道マルクとパクヤンと静かに歩く。
昨日とはまた違うゆったりと落ち着いた、バルセロナを堪能しきった一日の終わりがやってくる。
このまま寝ることだけが幸せ、というふらふらで僕は一番にベッドに倒れこんだ。