CrappyMiniBand + Daysuke@HELIOGABAL/熱狂のパーティー

朝9時前には起きる。
しかしこの早起きはなんだろうか、疲れているとか神経がささくれて起きるのではなく
何時も気持ちよい目覚めでおきれる、ヨーロッパに来てから夜は毎晩遅いというのに。
やっぱりストレスがほとんどないからだろうなあ。


家主マルクのルームメイトはあわただしく出て行く模様。
マルクもパクヤンもまだ寝ているみたいなので先にシャワーをいただく。
温度調節がちょっと難しいがなんとか浴びれて人心地。
二人ともなかなかおきてこないので荷物を整えたり日記を書いたりする。
パクヤンは12時前くらいに起きてきたがマルクはぜんぜんおきてこない。
さすがスペイン、シエスタの国だ。
パクヤンはおきてきてシャワーを浴びて、ドアがないことに驚く。


ようよう昼過ぎておきてきた彼と朝食。
やはりパンデトマト、ヤギのチーズとカフェオレ。
コーヒーが強くておいしい、こちらに来ると僕はミルクと砂糖を使う。
そのほうがおいしいからだ。
楽しく朝食しているとニコがやってきた、さすがご近所。
彼はこの後家族の用事が入ったということであるが、近所の楽器に案内してくれた。
一見普通なのだが小物関係が結構充実している。
口琴の見慣れないものや笛類に注目。
指でスライドしてポルタメントをつけれるオカリナ、リードつきの笛などいいものが多い。
中でも気になった細い金属の笛を手にすると穴がなくてやはり倍音笛だった。
これは安くて購入、あとティンホイッスルもよくあるあつだけど安いので購入。


この後に百円ショップみたいなところにいっておもちゃ楽器をバンドでまとめ買い。
結構いいものがあって楽しい。
いい年こいて子供のままに夢中で遊んだ。


市場のほうに案内されていくとカフェにマルクがいた。
一緒に市場に入ると魚肉野菜豊富で目に楽しい。
これぞ中国!というインテリアのすし屋もあった。
魚屋はかなり豊富で日本人の目にも新鮮でうまそう。
あんこうとかかにとかえびがうまそうだった。
魚料理行きたいけどパクヤンが駄目だからなあ。
もうすでにここバルセロナにに再度来たくなっている。
ああ、ここのハムを大きくほお張りたい。
足丸ごとの骨付きが57ユーロで売ってたりする。
日本だと何万円するんだ!



市場を抜けたらニコは家族の下へ行くのでお別れ。
それだけでもマルクとニコは親密に抱きしめあい別れを惜しむ。
毎日友情がシンプルにわかりやすく存在するこの世界。
30年前に、我が父がなにより人と人の結びつきにひきつけられたのを思い出す。
ここにいた彼の年齢を今の僕は10歳越えている。
25歳の彼にあってみたいという不思議な感情に襲われる。
ここにきて、いろいろなことを思い出してくる。
本当に、ここにいたんだという気持ちになる。


ここからマルクの案内でこのあたりを歩く。


古い旧市街で観光客に臭いはしない。
メインストリートでさえ落ち着いている。
今は特にシエスタの時間で14時から数時間、店も眠っている。
そこかしこにプラス、広場がある。
昼過ぎから曇ってきたが晴れたら気持ちのよい場所が広がっているだろう。
5歳の頃、この町かスペインのどこかで僕ははじめて積極的に音楽に興味を持った。
子供の頃は広大で巨大に感じた建物で囲まれた広場に、老人が黒い棒から音を出していた。
今となっては何かわからないそれを僕は毎日せがんで聞きたがった。
クラリネット、という言葉を耳にした。あれはいまの自分の音楽の原点なんだと思う。


途中でマルクのアトリエに立ち寄る。
彼はイラストレーターでミュージシャンだという。
アトリエは半地下で彼の仕事仲間もいた。
面白いものがたくさん転がっている。
彼の絵本や作品ももちろんある、子供のための本などすごくいい。
やっぱり絵はCGじゃなくて手書きのものが好きだ。
子供の頃に見たスペインの絵の記憶がよみがえってくる。



ぐるりと回ってマルクの家に戻る。
彼は早速ランチの準備に入った。
僕は購入したティンホイッスルの練習。
どうしてこう笛が好きなんだろうか。
好きさ加減でいえばtubaより圧倒的に好きで楽しい。
好きな楽器といわれたら笛と太鼓だ。
いつまでたってもこれは飽きない。
マルクはとてつもないナイスガイで素面で会うと濃やかさもよくわかる。
料理を待つ間に彼の絵本を読む。
言葉はわからないが彼の人柄そのものって感じ、しかも良い絵だ。
1冊欲しいというとまたアトリエで譲るよ、そして東京でも手に入るよ、という。
日本でも販売されているのだそうだ、やるなあ。
そういえば近所の本屋の店頭の一番見えやすいところにも彼の絵本があった。
彼と話していると、この地元をこよなく愛していることがよくわかる。
僕は都市の文化よりもこういう土地に密着したものに興味があり敬意がわく。
自分たちにはそれが薄いから、失われたものへの郷愁も少しあるのかもしれない。
大阪で谷町で、新しくそれをはぐくんでいるところだ。


夜ご飯食べられないぞーといいながら彼が出してくれたのはご馳走だ。
カタランの典型的家庭料理のひとつだというトマトの煮込み、パクヤンにはベジー用のセイタンという食品が山盛り。
僕らには紐の結び目がまだついているぶっといソーセージもついている。
いっただきます。
ローズマリーがきいていて野菜たっぷりの煮込みのうまいこと!!
ソーセージはさすが肉のカタラン、っていうかジューシーでうまい。
焼きすぎないのがこちらの好みらしくてジューシーでまことによろしい。
ここらのパンはパクヤンが「クランチー」というだけあって外側が本当にパリパリ。
ああ、何食ってもうまい幸せだ。


食後には濃いエスプレッソを決め(飲むというよりこの感じ)落ち着いたら
マルクはギターを取り出して歌ってくれた。
心づくしの食事を作ってくれて歌を歌ってくれる、こういうもてなしより嬉しいものはない。
この人、さすがというかなんというか、
仕草とか動きがニコとそっくり瓜二つでまるでニコがいるみたい。




ここにきてニコのことが少しわかって来た気がする。
彼は本当にカタラン気質のカタラン人なんだ。
アイデンティティは作られるのではなく無意識に沸き立つ。


食べ終わったら少しシエスタしたいね、といっていたが時間があまりないので出かける準備。
僕は楽器類を持ち、機材をニコんちにおいているパクヤンのために移動。
変な顔してで迎えてくれるニコに挨拶して出発。
これら全部徒歩、本当に彼の地元なんだなあ。
ここでいったんマルクとお別れ、今日はこの地で大事なサッカーの試合があるそうでどうしても見逃せないらしい。
ライブは来れないけどその後彼のアトリエでパーティーがあるからいく予定。
会場に着いたらすでにウリとラウルはセッティングをしている。
ここはアンダーグラウンドで大人気のバーで簡単なPAもある。演奏場所は狭い。
僕はマイクなしのアコースティックなので楽な身だ、笛の練習でもして待つ。
早速振舞いのビールが出てきておいしくいただく。


店の入り口になにやら販売コーナーがあって気になるのであけてもらった。
地元のCDや本や詩集が並べて売ってある。
1冊気になるものがあるので見ると小さな版画集ですごく感じがよい。
普段あまり本は買わないけどインスピレーションを感じるので買おうと思うと値段が分からない。
店員に聞くとこれは俺らの友達の出版した限定本だという。
多少高くても買おう、と思うと5ユーロだということが分かり喜んで即決。
なんか子供の頃に見た記憶と重なるのだ。
ちなみにここらは本、詩集、漫画の文化が色濃く強い。
エロスと死が同居してちりばめられている。
ニコはスペイン版のマルオスエヒロを持っていて大ファンだそうだ。
それもよく判った気がする。



今日は例のサッカーマッチがあるのでお客の入りは少し不安。
どちらも同じ時間10時から始まる。
まあゆっくりいこうとカウンターで酒をもらいにいく。
何が欲しい?といわれて、分からないよ、カタランのものを味わいたい、というとバーテンは
緑の瓶を持ってきた。
グラスの中で解ける氷が酒に強い縞模様を作る。
グッと呷ると甘さと苦味が同居した強い味わい。
これはカタランの酒でBONETというそうだ。

そして、もうこの工場は閉鎖してしまった、これが最後のボトルだ、という。
そんな大事なものを一見の僕にくれることに感謝した。


10時を過ぎてやっとお客がやって来る。
さすがサッカーに興味のない客層ってことでほとんど女性客だ、ニコ大喜び。
男はたいてい女連れで一癖ありそうな顔つき多し。
演奏者の目前まで並べられた椅子は満席で気がつけば立ち見パンパン。
time outという有名な雑誌にまで情報が載ったらしい。


楽曲と即興がいりまじるプログラム。
まだ2回目だがここバルセロナのお客はまたブリュッセルとは違う。
演奏中はガン見で、終わったら大拍手。
ブリュッセルだとこうはいかない、まず客を黙らせなくてはいけない。
ちょっと日本の観衆にも似ている気がするがリアクションは大きい。
ニコはウリの隣でドラムの音のでかさにやられている。昨日僕も体験済みだ。
ラウルはローズベースに高級エフェクターぶち込んでテルミンやスタイロフォンでいい味。
僕の位置からはパクヤンの弱音楽器もよく聞こえて好感触。
リンはひとつエフェクターが壊れたそうですごく生々しい熱演だ。
パンクな曲ではラウルニコ僕で立ち上がり狭い場所でハードコアに演奏する。
ウリのドラムは昨日より楽曲を知ったこともありさらに煽る煽る。
1時間30分近くのぶっ続け1ステージは大喝采だった。


終わるあたりから急に異様なスピードで客が増えていく。
どうやらサッカーマッチが終わったらしい、しかも地元バルセロナの勝利ということですごい盛り上がり。
店内はとてつもない熱気と歓声で居場所のかけらもない、日本語で「むちゃくちゃやー」と何度も叫ぶ。
満員電車の中全部が激濃いのラテン人でみちみちで、しかも全員酔っ払っていると思って欲しい。
そこに見終わった客たちの熱い歓迎が待っているのだ。
俺はパンクのベーシストだ、お前の演奏は世界一のtubaだ、お前にはパンクを同様感じる、と抱きしめられ
明日は何している、あさっては何している、ライブがもっと見たい、飯を食いにきてくれ、とほお擦りされ
昨日のエンジニアも仕事終わりで駆けつけてくれ、来年の大きなフェスに招待したいと真剣に誘われ。
なんという熱さと濃さだ。これがここバルセロナか!
ぐらんぐらんする、強烈だ。


地元凱旋のニコはもう大忙しで感謝を伝える時間もなかなかないくらい。
誰かに、こういう音楽はバルセロナになくて聞きたかった、本当にありがとう、といわれた。
ニコが自分の音楽の居場所を求めてブリュッセルにたどり着いたことを思い出した。
やっと捕まえニコありがとう、とカタラン流にしたがって熱い抱擁で感謝する。
すると彼は真剣な顔で、このツアーをやったのはdaysukeをバルセロナに連れてきたかったからなんだ、という。
またしても、もう感謝の言葉はない。
誰がこの僕を、愛する地元に連れてきたい一心で大枚叩いて呼んでくれるというのか。
愛情と感謝は言葉よりも早く、その行動で示される。
僕は今まで生き延びてきて、本当によかったと思う。すべてに感謝する。


しっかしだ、もうあまりの混雑、そしてタバコを吸わなければ人にあらず、というくらいの喫煙率に
体のほうがめげてきそう。床全体が大きな灰皿なのだ。
楽器に心配をしたくないのでパクヤンといったんマルクのうちに荷物を置きにいく。
店に戻るとニコたちも同じ考えみたいで機材をニコのうちまで歩いて運ぶ。
ラウルのフェンダーベースが激重い。雨の足元が大変だ。
みたび店に戻るとまかないが出る、というが、いったいどこで食えというのだ!
ラッシュの満員電車で飯を食うようなものだが、なんとかテラスの席に居場所を確保した。
リン、ラウル、ウリはけして広くはない店内であまりの人ごみの中で行方不明。
出てきた飯は豆とソーセージやハムを煮込んだもので、これ一品のみ。
パクヤンは当然食べれない、ここはカタラン、肉を食わずは人にあらず。
食い物選んで生きている因果応報だ、気にせずこちらはいただく。
冷たいのがおしいが、なんというかニューオリンズで食べるソールフードに限りなく近い。
これはすごく強い食べ物だ、とニコが言う。
こういうの食べないと、彼らのパワーは出ないね。
混乱の中食べるのがよく似合う。


二人ではちょっと食べきれない、そろそろ2時過ぎでパーティーにも行かないといけない。
残ったのはそこら辺にいた兄ちゃんらにおすそ分けして出発する。
もうむっちゃくちゃなひとごみである。外に出るだけでも大変だ。
行方不明のメンバーを置いて出ようとするとさらに挨拶にとっつかまりニコも消えた。
パクヤンと二人で探して向かうも同じような町並みが続くここらがうろ覚えでもう一度戻り
通りの名前を確認してから無事到着。
カラフルな扉を開けるとここも同様すさまじい熱気と歓声、つきささるような音量の音楽。
ラウルのDJで人々は狂ったように踊り騒ぎ飲みまくっている。
もう半分やけっぱちで酒を探してがぶっと飲む。
熱狂、という言葉はカタラン人が作ったんではないだろうか。




踊る阿呆に見る阿呆、同じアホなら、といったのは大阪人だが余りに面白いので
周りを眺めて人を見ているだけでおかしくてしょうがない。
この混雑でボクシングやダーツする馬鹿、飛び交う帽子とヅラ、巨大な甘いケーキ。
みんなも合流してきてわれ等の観衆も大挙、もうむちゃくちゃだ。
マルクはオーガナイザーちゅうか一番ノリノリのお立ち台状態。
エレクトロライブするっていうけどいっこうに始まる気配はなく、かけっぱなしDJ。
ここらへんでもうもみくちゃのめちゃくちゃ。
熱気はとりわけ男女のぶつかりがすごい。これは見ものだ。
そういやここのみんなは僕がブリュッセルからきたベルギー人だと思っているみたい。
ウリがここの爆音に負けないでかい声で「お前とやれて本当に嬉しい」と叫び抱きしめてくる。
これ以上に嬉しいことは、旅の音楽家には見当たらないことだ。


ここらでそろそろ限界だ、僕はパーティーピープルではない。
ライブの後はそんなに長く楽しめないほうかもしれない。
ライブが一日で最上のことで、それ以上楽しいことはなかなか見つけられない、というと
パクヤンに「ものすごく西洋人と違う」と変な顔をされた。
そういう気質なんだよ俺は。
できる限りに挨拶をし狂乱の会場を後にする。
振り返るとみんな永遠に終わらないような顔をしている。
すごい、バルセロナだ。

一人夜道を歩くのが気持ちよい。
軽く小腹が減ったので冷蔵庫から軽く拝借して食べる、なんてうまいんだ。
着替えて歯磨いてぶっ倒れるように寝たのは軽く4時を回っていた。