昼はベルギスタンショートライブ/レコーディング/matthieu,greg,days

朝に突然グレッグについてこないかと誘われる。
今日やることを2秒だけ考えて全部キャンセルしてついていくことにする。
こういうときは勘に従うに限る。


12時にセントラルの官庁街にいく。
ヨーロッパ連合や体制に対しての水に関するデモ、うまく話を聞く時間がなかった。


ついてみるとマチューハーもいた。
そして久々に会うベルギスタンのみんなも。
再会を喜び、ステージへ。
マニフェスティアンがひとうなりしたあとで
「ベルギスタンとマチューハー!!」と叫ぶ。
マチューを見るとサンドイッチほおばりながら首を横にぶるぶるふっている。
あはは、おっかしいなあ。


ここからベルギスタンのライブ。
気温は2度くらいだろうか、慣れてきたけど野外演奏には寒いぜ。
報道陣やジャーナリストも見守る中演奏。
曲は僕が知っているアルバムから2曲。
なんとソロが回ってきた、大好きな曲で。
カルカバが打ち鳴らされジェレミーのタパン(ドラム)に焚きつけられる。
空に向かって思いっきり吹く。
デモの人たちは厳しい決意をしているがこういうとき絶対楽しむ。
この町とこの町の人たちに吹くのが好きだ。
そういえば今回野外で吹くのは初めてのことだ。
この町に喜びが響く。


終演後いえーい、なんていってたらマチューが壇上に上がった。
さすが根っからのアンダーグラウンド、反体制。
楽器も何も持っていないマイクだけの剥き身の彼。
突然歌いだした、あの天使の声で。

ああ、マチューハーだ。
その場ですべての人を射抜く声を持った、堕天使。
今回の旅の中で始めて聴いた彼の音楽は、更なる旅を経てますます強靭になっていた。


降りてきたマチューに駆け寄り抱きしめる。
町の中で素晴らしい演奏を終えた人を抱きしめることがごく当たり前のこの町で。
とてもうれしかった。


終わったあとにすぐにグレッグたちに質問される。
いまからやるレコーディングに来る?イエスかノーか。
さらに予定をキャンセルして車に乗り込む。
40分くらい高速を飛ばした先に広がる牧歌的な風景。
昨年女優ルラのボートで一夜を過ごした先と風景が似ている。
一台の巨大な船の前でみんなでおりる。


もうこの国に来ても早々のことでは驚かないぞ、と思っていたのだがまだまだだった。
大きな船の中は居心地の良いスタジオで生活する環境も完全に揃っている。
下手な家よりずっと立派にできている。
持ち主が一人でぼろぼろの大型船を改造したらしい。
内装のあちこちは重厚な金属でできていてこれを一人で作ったらしい。
オーナーは今ブラジルにいるということ。
メンバーとエンジニアでまるでここに住んでいるかのようにリラックス。
まずはご飯、トマトの炊き込みご飯ととろとろのスープ。
もちろんキッチンだってなんだって完備だ。


ファンファーレドゥベルギスタン
http://www.myspace.com/belgistan
日本でライブするときにたいてい持ち歩いていて会場でよくかける。
するとミュージシャンからも客からもこれは何?ときかれる。
ハンファーレ(ル)はこちらでいうブラスバンドだ。
サックスはベルギー発祥、管楽器の王国だからこちらではたくさんバンドがある。
その中でも人気のトップバンド。


昨年学生たちが乱交しまくる学園祭に出演したときに共演した。
その直後に、来年の録音に参加してくれ、といわれた。
5月と聞いていたのがタイミングがずれてまさかの合致でこの日にできることに。
また過去の夢がひとつ叶った。


このバンドは日本人からすると、ああベルギーでジプシー風音楽やってる人ね、と
知ったかぶりされるが、このバンドはモロッコの音楽から大きな影響を受けている。
全員モロッコ狂で、現パーカッショニストはモロッコ人だ。
僕の参加する曲は、リーダー、マニュ(sax)がギターをひくしラッパ吹きは鍵盤、
グレッグはバリサクでなくゲンブリを離れたブースで、他もカルカバなど、
なんと管楽器は僕だけ、という編成で僕はゲストソロイスト。
2箇所のソロを与えられる。
曲をさらっと聴くと、そんなもん一瞬で覚えられるか!!!
と10回くらい叫びそうになるくらい難しい曲。
この人たち、楽譜なんて使わない、
とんでも変拍子にコード変化、合図の見えないエンディング。
とりあえずソロとラスト合奏に集中する。


僕はともかくメンバーが間違うくらい、難しい、どういうこっちゃ。
ソロはあんまり何度も取ると新鮮さが失せるかなあと思う。
何度か目の演奏のとき、機が熟したのがわかる。
ソロに入る音の密度が違うのが自分でもわかる。
渾身に吹きまくり、マニュの顔を見ると、もうたまらない、という表情で見上げる。
思わずこちらも合間の呼吸で声が出る、これは録音されていた。
細かいところでメンバーのミスがあったが、ミスより空気を優先させるのは当然。
全員の笑顔で迎えられる。一発録音ってやっぱりいいよ。
あとでここにサックスのユニゾンとカルカバ10倍重ねるらしい。




+++

ここで強く思ったことを書いておく。

グレッグにベルギスタンのことを聞くといつも「ただのパーティ−バンドだよ」と半分自嘲して言う。
これを日本で音源聞いた人に言うと絶句される。
この超絶技巧演奏、これ、ただのパーティー音楽である。
表現とか芸術とか、そういうのではまったくない、ただの娯楽音楽。
実際僕は学園祭でどういうバンドかを体験した。
千人くらいが外の広場で踊り狂ってた。
ほんとにパーティーバンドだった。

日本のことを思うとちょっと暗くなるよ。
特に大阪に帰ると僕の周りのバンドはいうなればパーティーバンドだ。
友人や知り合いやその知り合いのつながりでもってて、輸入音楽ばかりやってる。
たまに別のがあると思うと、コンセプトだ主張だなんだいってるのもある。
民族音楽の紛い物(アフリカとかインドとかその他)もごろごろ。
うんざりすることは今までも多かった。

ベルギスタン、これでただのパーティーバンドだぜえ。
マイスペースのアルトソロ聞いてくれ、これはリーダーマニュが吹いてるんだが
この人、本業はバリバリのギタリストだぜえ。サックスはこのパーティーバンド用の片手間だ。
タパンというドラムは、フロアタムみたいなのを片面マレット(撥)でもう片面は細い葦の棒で叩く。
上に一枚シンバルがついているだけの代物だ。
ジェレミーはこれを独学で身に着けた、彼の演奏を聴くともうドラムセットは必要ないように思ってしまう。
ドラムセットで今まで必要だったことはこのおんぼろの拾ってきた太鼓だけで成立してる。
それも極上に。
立派な機材やスタジオでのうだうだしたリハをたらたらやって
自分も回りも楽しいからいいんだってやってる
日本のへだらなバンド、もう俺は絶対に見れない。評価できない。
大阪に帰ると下手なバンドばかりでうんざりする。
そりゃあ音楽はハートだよ、でもそのハートを出すテクニックすら大事にしないハートって何よ?
ファンファーレチョッカリーアもタラフドゥハイドゥークスもパーティーバンドだ。
あのくらいのガッツと技術なかってどうする?
そのくらいの人たちと演奏できない程度の演奏者が跋扈するのは、ほんとうんざりだ。


+++


とはき散らかしたあとでと。
次はすでに録音した別の曲に重ねる作業。
全員世界各国の笛を手にしてぴーひゃらジャングルの音。
ああ、ここに泉さんがいたらなあ。
僕は例のtubaフルートを吹き鳴らす。
後で聞くとアフリカの尺八、みたいな音をしていた。
これは気軽に終了。


来てくれてありがとう、といわれる前に誘ってくれて本当にありがとう、という。
去年ライブ後に話してたよね、録音一緒にやりたって。叶って本当に嬉しいよ。
グレッグが何度も礼を言う。
こんな急な誘いに来てくれて、このバンドに来てくれて、と。
僕にとっても1年越しの夢だったんだよ。
しかもあんな馬鹿で気持ちの良いソロができて本当に嬉しい。
メルシー、シュクラン。


なぜか作業中にラップトップでレースゲームばかりしているやつらがいるのもおかしい。
先に帰るマニュ、ハディ、グレッグと僕でおいとま。
来るときは石炭船と大きな鳥たちが迎えてくれたが、帰りは野うさぎたちがライトの明かりに飛び出してきた。


グレッグ邸でマチューと待ち合わせ。
ロッコ人打楽器奏者のハディとグレッグでガトーショコラを食べる。
ハルワ、おいしいねえ。
ハディは英語があんまりしゃべれないのでごめんね、勉強するつもりなんだ、
というけど発音は僕よりきれいだし、僕の日本の友達で英語いけるよ、なんていう人らより
ぜんぜんしゃべれていると思う。
いやあ、目を見りゃいいやんか、というと微笑む。
この人、ひょうきんで軽くて感じよくて、なんだかバレルハウスのそんちゃんに似てる。


マチューと三人でまたしても川へ車で。
今日は川と水に縁のある日だ。
メッヒェレンの田舎のほう。
川沿いにある典型的なベルギーの田舎の風景。
古くて感じの良い町に一軒のバーレストランというかんじ。
店の中にある調度もブリュッセルとは違って雰囲気が落ち着いている。
壁には古いtubaのヘリコンバスがかかっている。

店の人も店内の人もちょっと田舎っぽくて粉っぽいというか気さくでいい。
バーテンのトムに早速挨拶して地元のビールをもらう。
これがめっぽううまい、CAROLUS。

日本だと上品高級になっちゃんだろうけどこちらだと田舎のビールだ。
そうこうしているとこの日のブッキングをしてくれたルラがやってきた。
人気の舞台女優でマチューの息子の母親。光り輝く美人。
ルラより先に飛び出してきてむしゃぶりついてきたのは息子のアンジェルだ。
去年から大の友達。名前のとおり天使だ。


音楽の準備はそこそこに、この田舎のパブの雰囲気に飲まれて楽しむ。
ここは典型的なフランドルの村の居酒屋だそうだ。
観光やブッキングされたライブでは絶対たどり着けない場所に来ている。
グレッグはゲンブリ用のスピーカーをセット、僕は楽器出すだけだ。
マチューはベトナム仕入れた路上演奏用スピーカーとアコーディオン
久々に見る彼の楽器ケースは日本橋ツアーのみんなで感謝を込めて送ったものだ。
みんなの書いた寄せ書きも健在。
ベトナムでもこれを横に見せて毎日路上演奏していたらしい。


食事は後で、のつもりだったんだけど腹が減ってて人の見てて軽食を頼む。
クロックムッシュ、ホットサンドのこと。
とにかくこの地ビールがうまい。


地元の村からだけのお客さんに向けて演奏。
最初マチューはそこにいない、彼のベトナムスピーカーは無線で飛ばせるのだ。
メンバー紹介がスピーカーから流れてくる。叫びや嬌声も。
呼応するかのように僕はカヴァルでグレッグはゲンブリを置き弾いて。
今日の演奏は即興がベースだ。
といってもフリーインプロではなく、あくまでマチューのいるインプロ。
彼は即興もするが即興の人ではない。彼の世界がある。
前半はどうしてもそれに引っ張られてしまう、つまり彼のできないことに引っ張られてしまう。
悪い演奏ではないけど全体的に思い切ったジャンプができない。


2部は根本を変えて、僕はtubaをあまり吹かずに笛やそこらのもので演奏した。
このほうがその場に必要な演奏ができる。
1部の窮屈さは、tubaが必要ないことの、その役割が固定されて消えしまったことからきてたのだ。
店の古い金属のお盆を客から奪い取ったスプーンでさまざまな方法で鳴らす。
歌って踊って、そこにベルギー一のヘンテコミュージシャンYOが飛び入り。
なぞのトランペット、投げつけると爆発する紙のつぶて。ほんとへんなひと。
押しが弱いので害がないのがいい。
田舎の人たち大笑いのパーティーインプロ。










終わったあともマチューは余力を出し切るように演奏続行。
こうなったら後は飲んで見てるのが楽しい。
Yoが芝居みたいなことしてておかしい。
アンジェルは紙爆弾を投げ続けている。


しかしここもベルギーだ、換気という概念はなくひたすら空気が悪いので外でも休憩。
かわっぺりの空気が本当に気持ちが良い。
落ち着いたらちゃんと食事をいただく。
ボロネーズパスタ、予想通り麺は細麺で激柔らかい。
やっぱり北方系の人って本当にパスタゆでるのが下手だ。
それは覚悟していたからおいしいソースと大量のチーズで楽しむ。


かなり遅くまで飲んでお開き。
久々に酔っ払った。
しかし僕は序の口でルラはもう英語がさっぱり出てこない酔っ払いでフランス語とオランダ語のちゃんぽんで
何度も何度も僕に礼を言ってくる。
彼女のような皆に尊敬され愛される女優が、どうしてもdaysukeのライブをここでしたかった、と言い
一年越しで実現してくれた。
昨年朝に居候先に突然やってきて、あなたのCDが欲しいから来た、といったときのことが忘れられない。
人は見かけや決められた個性ではなくて、その人の思いのままに動くことができる。
たくさん教えてくれた、ありがとう。


もうみんなへろへろ、グレッグと僕は朝から長丁場で結構ぐったりだ。
グレッグちょっと酔っ払ってていってることが変で帰り道が怖いけどなんとか帰宅。
もうなにもできずに寝るのみ。