エリックシールマンスと会見/karim,eric,kouz,daysuke,and more

昼はエリックシールマンスと会見。
このほにゃほにゃ野郎が多い中で明らかに異色のタフガイから呼び出される。
けして暇人ではない、ベルギー中のミュージシャンから尊敬されるドラマー。
ちょっとどきどき。


行くと隣にはチャーミングな女性がいた。
ローという名前のヴィジュアルアーティスト。
彼女とのインスタレーション・エキシヴィジョンの様子をpcで見せてくれた。
他にも盲目の老メシアニストとのコラボや、バールフィリップスたちとのライブも。
次々とpcで写真を見せてくれる。


彼と彼の協力者である女性(ローじゃない人)とが、今ある構想を持っている。
多くはない、その国にいる数人のコアなミュージシャンたちと連携を持って
組織じゃないネットワークを持って世界中に有志のつながりを作る。
そのひとつに、daysuke、君もどうだろうか、という。


これはよくあるコミュニケーションネットワークつくり、とかいうもんじゃない。
精気精力あふれる彼からは、つまらないこと一言でも言うやつとは口なぞ聞かん、
という気概がびんびん伝わってくる。
彼の話の内容はくらくらするほど強力で魅力的で、興味深い。
謙遜や遠まわしな物言いなどかけらも見せず、多忙で冒険的な自分の生き方を
「まあ俺はタフだ」の一言で言い切る。
腹の探り合いなんて何もない、俺はこれがしたい、お前はどうだ?


実は話の内容よりも魅力的なのは彼自身であって
彼の声、表情、しぐさは話の内容よりも彼自身を雄弁に語っている。
チャーミングで、迷いがないんだ。
彼に比べればまったく経験に乏しい、しかも英語ド下手な青二才の若造の僕の話も
本当に注意深く聞いてくれる。
僕も、こんなに人の話を真剣に聞くことはない、というくらい集中した。


pcで映像を見せたのもいろいろと話をしたのも。
ちゃんと自分のことを知ってもらいたい、という強い気持ち。

こちらでよく聞く話、「良い音楽家であり良い人間である人と、ともに時間が過ごしたい」
これに尽きる。
もちろん音楽は大事だ、しかし同じく両立することは非常に難しい。
しかし彼の魅力が物語るように、彼そのもの、その人間がその音楽だ。


しっかしまあ、磁力的な人だなあ。
我が上記を見るに、ほとんど惚れた相手にことみたいだもんね。
魅力的な人間が多いこの国でも、これは屈指。
厳しさと優しさの同居、大きさ。
規模は違うけど、同じものが好きで同じものが嫌いなことが非常に多かった。


また未来の夢が開かれる、素晴らしい時間だった。
今は何一つ決まっていないけど、彼と何か未知の世界へ行くことが、新しい夢だ。
彼のことを知るにはこれが非常に簡単かと思う。
ベテランの彼が最近やっとリリースした音源は
教会の中で録音された、スネアソロ、アナログレコード。
今度持ってきてくれるという。有頂天。


++++


夜は夜でカリム、エリック、クーズ、そして名前失念のアラブ人とのライブ。
昨日のリハだけでもどきどきしたカリムの歌と力。
クーズとアラブ人のデュオでしめやかにはじまり、突然呼び出され彼の曲ラブホテル共演。

続いてカリムとエリックのデュオ。
人格が自在に変化するかのような、まるで演劇だ。
フランス語によるフランス語の歌。

僕には内容はほとんどわからないが、観衆はともに歌い笑い泣く。
ヒューマンビートボックス、商業主義批判、汚物の歌、なんでもあり。
これが、これがシャンソンなのか。
オペラとストリートの幸せな融合だ。

ここに参加する。
曲はサドマゾの歌。
やめてやめてと悲鳴をあげる男とやれやっちまえと脅す男が交錯する。
最後は回転のこぎりで切断されてジ・エンド。
細かい説明などない、声と音による物語。
こちらの人は口周りで出すノイズが本当にうまい。
それがいやみなく表現の中にあって、広がっていく。
複雑な進行と構成、変拍子
頭使って覚えてられない、体と心で感じるのみ。
ちょっと間違ったけど、情景にあった良いものができたと思う。


最後の曲を終えてアンコールを終えてもまだなる拍手。
カリムのお客さんはオルタナティブな音楽が好きな若者も、
そうとう良い年の老人もいる。
生きているシャンソンが好きなんだなあ、みんな。


これまた急に呼び出されて全員で共演ということになった。
もちろん持ち曲なんてない。
即興だ。
こちらで即興できない、しない、なんてミュージシャン見たことない。


クーズとアラブ打楽器の人がいるので俄然アラブ色が濃くなっていく。
カリムはチュニジアとベルギーのハーフで、青い瞳と濃い黒髪。
ベルギー生まれでアラブ語は話せないという、しかし色濃くにじむタクシーム。
エリックは万能鍵盤弾き、どんなものでもスーパーにする。
僕?頭を使わないで体使って心張るだけだ。
おいしい音楽の幸せな時間。
乗りに乗ってくれたお客さん、ありがとう。


楽しんでくれたお客さんは必ず帰る前に一声かけていく。
明らかにカリムの歌目当ての老人たちにもウインクとキスを受ける。
ここには共通のセンスなんてものはない、ただ感じたかどうかだけ。
ありがとう。本当にありがたい。


店主バンジャマンが心を込めて作ってくれたタジンを賄いでいただく。
おいしいなあ、みんなで囲んでさらにおいしい。

バンジャマンはいつもBIOの食材しか使わない。
ベジタリアンがいても食べれるように野菜のみだ。
それはどんな人にも幸せになって欲しいといつも願う彼そのもののようだ。
驕りやスタイルは、ここにはない。


ああ、楽しかった。
この後たくさんのパーティーに誘われていたけどせっかく家から歩いて5分のここ。
おとなしく一人で帰ることにする。


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カリムがギャラを配りに来た。
呼んでくれたとはいえ僕は3曲しか演奏していない。
僕のお客さんなんていなかったし、断った。
「それは俺の哲学ではない」ときっぱりと言い切り、札を手に押し込んで来た。
こちらで僕はいつもするように、もらった札を額につけ、頭を下げる。


エリックシールマンスがいってた。
「金は問題じゃない、俺は自由になるために音楽をやってるんだ」
ないと先に進まないことも多いのは当たり前。
それでいても、それを問題にせずに、まっすぐ生きる。


彼ら二人に限らず、はっきりと自分の哲学を、日常の中に持ち合わせて生きること。
僕はずっとこれが普通だと思ってきた。
ここではずっと普通だ。
冬の寒い夜空のした、坂道をゆっくり一歩ずつ登るたびに、
この日のことが染みてくる、味わい深く。