home concert party@rue de savoie 42

どうも朝早起きしてしまうのはここが寒いからだろうな。
朝仕事から帰ってきたグレッグとすする味噌汁がおいしい。
BIO派の彼の台所の食材は無農薬有機がほとんど。
味噌だって広島の無農薬有機だ。
ベルギーで最近復活した昔野菜白にんじんがとてもおいしい。


+++


今朝朝ごはん食べてたら、電話が鳴った。
ハロー、エリック、ええとどのエリック、わあ、こないだ一緒にやった超タフドラマーの
エリック・シールマンだ!

おはよー、なに?
わ、ライブオファーだ!
ほかにもゆっくりいろいろはなして、フェスのオーガナイザーも紹介したいとのこと。


やった!
彼は僕のことはよく知らない、ただあの時少し話して、そして懸命に演奏したことだけ。
そこにいるだけで異様に強い存在感を放つタフガイだと思った。
うわあ、あの彼が誘ってくれる、むちゃくちゃうれしい!!!!!!!


ブリュッセルの同世代凄腕ミュージシャンたちでさえ
「彼はスペシャルだ、間違いなくベルギーのトップドラマー、最高だよ!」
といっていた。
ヤニックは、彼はコレです、といってすごい背伸びをして腕を高く上げて手を横に振ってた。
高みにいる人。
日本じゃ自慢は嫌われるけど、こちらでは絶対自慢するぞ!


あー、らんらん。


今日はこないだまでずっとすんでいたエリックの家でホームコンサートパーティー
通称daysukeフェスティバル。
昨年ただの家のワンフロアに200人がやってきて家が壊れかけたこの家。
http://d.hatena.ne.jp/daysuke/20070926


どうも朝早起きしてしまうのはここが寒いからだろうな。
朝仕事から帰ってきたグレッグとすする味噌汁がおいしい。
BIO派の彼の台所の食材は無農薬有機がほとんど。
味噌だって広島の無農薬有機だ。
ベルギーで最近復活した昔野菜白にんじんがとてもおいしい。


夕方にエリック邸へ行く。
ペンキ塗り替えも終わっていて荷物も片付いていい感じ。
しかし物が片付いていると少し落ち着かない、ここは。


住人と出演者たちでまずはディナー。
僕は昼飯が遅かったので遠慮。ワインとパスタ。

しっかし後10分で始まるというのにほとんどお客が来ていない、大丈夫かなあ。
まあ住人と出演者だけで結構な数だし、昨年の大狂乱パーティー来場200人で
家の底が抜けかけたのに比べたらのんびりしてていいよなあ、
とか、
思っていたのが、大変甘かった・・・。


気がつけばフロアは人人人。
知ってる人もいるけどもちろん知らない人もたくさん。
メインのオーディオフロアとキッチンに人がぎっしり。
この時点でぱっと見6,70人というところか。
(ここ、ただの普通の家です)


まあベルギー時間なので押しに押して開始、最初は
住人で今回のオーガナイザーでもちろん大事な友人ですばらしい鍵盤奏者で
(このあとでいろいろと爆裂することになる)エリックとヤニックとコンタンと僕。
僕以外ブラックライトオーケストラのメンバーで、昨年
不法滞在スクアットのビルでシュトックハウゼンのティアクライシスを演奏したメンバー。
http://d.hatena.ne.jp/daysuke/20071018
今回は全編即興、コンタンは普通のフルートで臨み気合が伺える。
音量コントロールがたまに難しいヤニックのドラムが支配的でコンタンかわいそう。
ちょっと硬質によったかもしれないけどなかなかよかったと思う。


終わったらみんな持ち込みの酒にがんがん飛びついて飲む飲む飲む。
カフェで飲んでいるときの飲み方とはわけが違う。
ここは治外法権、普段はあまり見ない酔っ払いが増えていく。
友達に挨拶するだけで時間がぶっ飛んでなくなっていく、というくらい
新旧の友人たちが集まってきている。
1年ぶりの再会やちょっとおひさも。
それぞれに知らない友たちが広がっていくのを見る喜び。
この時点でさらに人間入りまくって家の中はパンパン。


次はキッチンで住人ファビアンのグラスハーモニカライブ。

テーブルに並べられた多数のワイングラス、さすがヨーロッパ。
相棒に昨年リエージュで世話になったヤネックがやってきた。
ダラブッカ、グラス、空き瓶吹きが交錯しお客に回され美しくておかしい音楽。
即興ワークショップとか、意味なさないくらいこれは楽しい。
誰かのうがいの音がエンディングでみんな爆笑。


一応出し物として最後のバンド、クルワサン。
ジョアオ、パクヤン、グレッグと僕。
先ほどとは違い硬軟取り合わせ、ダイナミクスの幅もとてつもなく広いジョアオのドラムに
包まれて、歓喜の自由をなす。
同じドラマーでもUKIYOとは違うサウンドになっていて嬉しかった。
何せグレッグ、心の友と通う息吹は交感で交歓だ。
パクヤンがほかではない鋭さで切り込んでくる。
ここでは吹くことも発音することも、うた、に集約される、僕の演奏は。
即興演奏、とか言うのも馬鹿らしいくらいに、これはいつの世にもあった音楽だと思う。
大拍手、バックにはキッチンの酔っ払いの関係のない歓声。


さあ、終わった、腰すえて飲むぞ。
もう友人たちはべろべろである。
ビール1杯に30分かけてゆっくり話をするあの優雅なベルジャンの姿はもうここにはない。
日本のおっさんと同じ飲み方である。
こないだまでここに住んでいた飲み悪友ティエリがウォトカ持参だ。
かっくんかっくん、ああハードリカー久しぶり。
あちこちで爆裂爆笑爆飲炸裂、もうむちゃくちゃ。


+++


さらにむちゃくちゃなのが深夜1時を越えて始まる突発的セッション。
気がつけばライブをよそで終えたミュージシャンたちが楽器持参で増えている。
みんな飲んでるしすげえテンション。
最初は誰かが大音量でレコードかけてるのかと思った、それくらいかっこよい。

太鼓とリズムがアラブだったので3拍子系の早いあれ、マラケシュの広場できいた
ストリート・シャアビのフリー版、あれに似ている。
終わったらあんまり参加しない最近の僕でもコレには参加。
低音の太鼓のように無秩序のようにしかし正確にtubaでビートを打つ。


これこれ、これがやりたかった、っていう種を見た。
シャアビはジャンルではなくてモロッコで大衆音楽のことだそうだ。
この早い3拍子系のリズムの中に、短い音で刻むリズムも
上に乗る歌や長い音も、歌を感じさせるあの感じ。
強くあることと大衆音楽であることと即興演奏であることが、途切れていない。
我は得た。


あの大好きな歌手、カリムと一緒に歌を歌う。
自分の放つ音が誰かの何かにこだまして、小さな変化を与え、それが後に
大きな変化のもとになる、川の中に石を投じるように。
楽しかった。


参加者がやたらに増えてきて誰もやめたがらないのでだんだんぐだぐだに。
その辺で切り上げてキッチンで乾杯に戻る。
ティエリとゆっくり話すのがとても楽しい。
生粋のフランス人である彼も僕もここではエトランジェなんだ。
ブリュッセルはいかに特殊かをわかりやすく教えてくれる。
もう凋落の気配をはっきりと見せるヨーロッパのなかで、この町だけが
何か違う活気に満ちている。
それはベルジャンと異邦人のさまざまなぶつかりや混じり・交じり・雑じりによる
形を持たないダイナミクスによるものだ、と僕らは思う。
僕らも、その大きなうねりの中の、小さな小石なんだ。
シンプルな参加する喜びがここにはある。


もうこのあたりから本当にめちゃくちゃ。
ライオネルハンプトンに曲を提供しオーネットとも共演しているという
ベルギーでもっとも有名な作曲家がピアノで乱入。
現在すごいオペラを書いていてみんなの先生的存在だという。
しかしこれがまたすんごいこと酔っ払っているんだけど、
複雑なアラブ系の11拍子のリズムの嵐の中に、ヨーロッパ!てなものすごい美しい
コードをなんちゃないかんじで休みなく入れていって、
粗野な匂いのしたこのセッションを華々しくしてくる。
うーん、すごいなあ、ベッロンベロン何だけどこの人。
どうやったらそれでこの拍子の中にジャズとシャンソンを遊びで入れまくるの?
そんなにベロンベロンで。


こっからは僕はもうよくわっかりませえん。
周りがすごいめちゃくちゃだから自分の酔いは落ち着いていくのが不思議。
この日の酔っ払い一等賞はわが友エリック。
いつも理知的で優しく包容力にあふれ、つつしまやかで穏やかな父性を感じさせる
この人、こうなると実はパーティーモンスターだった、忘れてた!
ソファーで女の子二人はべらせ膝にのっけて同時に相手し
せっかく念願かなった禁煙もチェーンスモークで台無し、
最後に弾いていたピアノがあのエリックか!ってくらいド下手になってた!
こちらは笑いっぱなしだったよ、ありがとう。


+++

見てよ、コレがブリュッセルだ。


享楽的で快楽的でだらしなくて、遊ぶことに命をかける人がいて、
とりつくろっていたまじめさの仮面はあっという間に剥げ落ちて、
ともに歌い踊り飲み、だきあいキスをし
今のこと以外に向ける顔はなくて、会話と対話が何よりの娯楽で
勝手でわがままでふしだらで薄汚くて強くて弱くて


でも、愛さずにはいられない、この町を。
たくさんの性格を併せ持つ一人の人間を愛するように、この町を感じる。
昨年はこの町に抱きしめられているような気持ちで幸せになったが
いまはこの町を抱きしめているような気持ちになる。


+++


パーティーが始まる前にコンタンが包みを開けてくれた。
開けるとそこには3本に分解された筒がある。
カヴァルだ、ブルガリアの本物だ。
彼が旅したときに買った貴重で大事なものだ。
事故後の僕を知っている人はこの斜め吹きの笛を自作して吹いていたのを見ているはず。


生まれてはじめて吹く本物は、名工の手触り。
油にまみれた存在感のある重い木。

吹いた瞬間に欲しくなった、日本ではまずないし、ベルギーでも見ない。
ものすごくよいものだということはきいていたので、持ち金全部出しても買おうと思って
思い切って相談したら、コンタンはちょっと考えて、
お金はいいよ、って目を見て言う。


俺は日本人だ、恩義には恩義で返す民族だ、としか言えない。
ありがとう、心優しき笛吹きコンタン。
人生でいつか手に入れたいと願っていた楽器が、ひょんに手に入った。
しかも名入りの名作。


こんなことまでおこる、この町。
なぜかは僕は知っている。
ここには友達が、それもとびきりの、すばらしい、本物の。
心の底から一緒に喜びを分かち合い、辛く悲しいときには肩を抱きともに泣き
我が身を分かつかのごとく、心を通じ合わせることを人の暮らしの基本にする、
それだけで、日々の暮らしは最高のものになる。


僕は幸せです。
皆さんもどうか元気で。