eric/lynn/daysuke@kingkong antwerp

eric thielemans(ds) Lynn/daysuke

アントワープ初めての場所でライブ。
ちなみにベルギーは公用語が二つあってブリュッセルとそのあたりから南はフランス語、
それよりの北のほうはフラマン語オランダ語系ですな。
駅の標識もすべての表示もブリュッセルでは大体二つある。
つづりも発音もまったく違う駅の名前が二つ書いてあってはじめは必ず混乱する。
さらに政府も公共機関も二つの言語系社会で分かれていてたいてい二つある。
それぞれまったく考え方が違って仲はよろしくないみたい。
昨年来たときは同じ国の二つの政府が喧嘩しすぎて、数ヶ月無政府状態になってた。
それでも何も混乱が起こらない、すごいといえばすごいけど、どこも政府はこんな役立たずか。


とまあ、かたいはなしはおいといて。


今回のライブはクラッピーミニバンドのリンが誘ってくれて、
二人でアントワープまで電車移動。
首都BXLから約一時間。
おりると風景がまったく違う。
ドイツかオランダのように整然としている。
ブリュッセルは並んでいる建物の作りも大きさも全部でたらめで見ていて楽しい。
ここのくると少しさびしくなる。
人々もなんだかかっちりしてて、人種の混交も首都ほどではないと感じる。
ブリュッセルは愛すべきカオスの町だ。


ついた店はどうやら、おされミュージックcafeであって店内音楽が激ダサ。
渋谷とか代官山とか心斎橋とかと変わらんぞこれじゃ。
ミュージシャンにもこのあたりのセンスはかなり不評だとか。


初競演のエリック・スゥイールマンは少し年齢上の感じのドラマー。
ベルギーでは知らぬものなしのトッププレイヤー。
(店の看板でも名前が略称になってたけどそれでも客は来るということ、だ)
話をしていると昨年だっけな、フランスで渋さ知らズのメンバーとセッションしたとのこと。
スガダイロー大絶賛してた。


一緒に飯も食ってゆっくり話もして。
アントワープ人は英語もみんな達者だ。
俺にはちょっと難しいレベルまで行く、発音はきれい。
ここ一月、人の話をものすごく集中して聞く癖がついたなあ。
これは日本でも保ちたい。


エリックは世界中で演奏しているみたい。
ロッコやアフリカの話にも詳しい。
そして彼の地で共演するヨーロッパ人にかなり批判的。
ただの音楽搾取だよありゃ、と。
たしかそうもいえる。
それよりもお互いの文化をエクスチェンジしてやれるかたちの、
モダンでコンテンポラリーな志向のほうが好みらしい。


この辺で俺は長考した。
そうかもしれない、自分もそう思っていたふしもある。
今回のモロッコだけではなく、前から思っていたこと。
交流が無理な場合もあるんだ、そのほうが多いんだ。
それを無理に何でも組み合わせて、ほら新しいですとか、もうやめればいいのに。


プログレッシブなグナワのほうが好みそうなエリックだが、
彼だってわかっているだろう、伝統グナワの強度がいかほどかを。
アフリカの伝統音楽だってそうだ。
俺個人は強さと美しさに惹かれる。


まあわかるさ、彼もいってた、ベルギー人でさ、インドの服着てチャクラがどうどかいって
シタールとタブラやって悦に浸る馬鹿とか、ほんとクソだ、と。
そう思うよ、だから(ってわけだけではないが)多分彼も俺も即興演奏してるんだ。


+++


って結構いろいろ考えてしまってから、演奏開始。
自分にも他人にも厳しそうな強い男との共演だ。
リンはエフェクト多様ボイス、エリックはこちらのドラマーはみんな持ってるプレミエのドラムに
多数の小物も持ってきている。
僕はマイクなし生tubaと根性のみ。


1ステージ目でも探りあいなんてしない、かなりゴツイ演奏。
マイクなしなんでこちとら音量コントロールと音色の選択の組み合わせには限りあるけど
俺は俺である音楽を、誰とでもどこでもやる、だから毎回まったく違うものになる。


2ステージ目は1ステージ目よりもソフトな表現が多かった。
こっちでソフトというと柔らかい、とはまた別の意味。
ここでわれらは馴れ合いにならないで、アンバランスな平衡を楽しみながら音楽を生んだ。


終わったあとには全員気持ちよい笑顔、俺は大汗。
アントワープ名物のビールを飲んでごきげん。


+++


終わったあとになんだか店と話し込んでるリン。
出てから聞くと、次のライブの申し込みに「何人お客きそう?」ときかれたとのこと。
エリック、これでファックトアップ。


日本では当たり前のように聞かれるこれ、こちらでは大変失礼。
ミュージシャンに客を集めてくれ、という店はクソ扱い。
客はバーやカフェ、クラブが集めるものだ。
そりゃそうだよな、客集めはミュージシャンの仕事じゃない。


この日も客はノーチャージ、入場フリー。
僕らには多くはないが(後でほかのやつにもっと取れと怒られた)
レジからギャラ金は出てくるし、日本で言えば言うことなしなのかもしれないが。


ミュージシャンは誇りを持って生きていないと駄目だ、
いや、ミュージシャンに限らない、人は、だ。
そうじゃなくなったら、おしまいだ。


エリックはこんな感じ、
「あーはいはい、わかりましたよ、こんなこという店に出た私がわるーございましたっと」
俺がギルティ、とはっきりと2回言った。


ちょっと移動の車の中で、リンが言ってた。
ブリュッセルは特別なんだって。すごくいい感じになっている。
店はミュージシャンを支え、お客は未知の音楽を楽しみにしてくる。
なるほど、俺らはとても幸運なわけだ。


++++


リンのお父さんはこの演奏をとても喜んでくれた。
しぶいロマンスグレーだがもしかしたらそんなに年は変わらないかもしれない。
リンはまだ20代前半だった気がする。
即興演奏という音楽を、生き方を選んだ自分の娘を
心配しながらも誇りを持ち大好きなのがわかる。
ありがとう、僕もとてもうれしいです。


とある店に入ったらちょうど待ち合わせのジョバンニのライブが終わったところだった。
すごいよかったて、ぎゃあ聞きたかったなあ。
うちとこっちをはしごで聞きに来ている人もいる。


ところこのお店MUZE、すっごい雰囲気のよい店。
さっきわれらが出たkingkongとはえらい違い、あっちだって日本にありゃいい雰囲気だが。
30数年、この地の音楽を支え続けてきたという。
天井にある古いオブジェ、壁のタブロウ、不思議にうねる複数の階段、複雑なドア。
人が場所を作る、の典型だ。
いつかここで演奏がしたいなあ。
また夢が増える。


+++


彼らが終わった時点で1時20分くらい、当然片付けもおしゃべりも飲酒も長く遅い、
帰りは彼らの車送りなので待つこと数時間。
もうふらっふらで、送ってもらって帰ったら4時過ぎ。
最近毎晩こんな調子だ。


隣に便乗した男はとてもよいドラマーらしいが、アル中で問題性格らしくて
そういえばこないだオードレーとのライブに名前あったけどこなかったやつだ。
よいプレイヤーだが非常に難しい男だ、と何人からか聞いていた。
大変めんどくさいので隣でん寝た振りしてたら本当に寝たのでよかった。
どこにもスポイルされたあまちゃんはいる、そんなの相手にしてる暇はない。


+++++


帰ったらまた突然に居候してた部屋に別のカップルが突然泊り込みにきてて
部屋変更。荷物を取り出すこともできず着の身着のまま隣の子供部屋で寝る。
ここは昨年よく寝た場所だ。


ふらっふらでシャワーも浴びずに寝る。
寝入る前に、今日のエリックとリン父さんが同じ言葉を使ったのを思い出す。
自分の日本での音楽生活を聞かれたので軽く伝えると、
「君はそうやってサヴァイブしてきたのだね」といった、二人とも。


生き続けるために、今まで必死でやってきたことを
片言の5分の会話で皆が軽々と理解する。
こんな人たちが暮らしている国を好きにならないはずがない。
俺は幸運だ。