リラのあと

daysuke2008-11-09

昼前くらいに起きる。
まずは残ったみんなで朝食だ。
ハッサンのママや家族もみんないる。
いつもより多い人数で囲む大家族の食卓。
なんて楽しく心安らぐ時間なんだ。


ご家族の女性たちが、昨日の僕のtubaソロをことのほか気に入ってくれたそうだ。
リラがはじまる前に、この家に命を吹き込んでくれてありがとう、といわれた。
涙が出そうだ。シュクラン。


この後、家の大掃除がはじまる。
荷物の移動などは男性たちの、主に掃除は女性たちの仕事のようだ。
床はありとあらゆるもので汚れている。
とりわけ強い血の匂いとお香の臭い、獣とその内臓の臭いがすごい。
僕にとってはまだこれは喜びの臭いだ。
床はタイルか石なので掃除は水とブラシでゴシゴシと。
すみには流せるように排水溝もある。
ロッコの伝統的な家は、こういう儀式が出来るように作られているようだ。


三々五々、家族のみんなもそれぞれの家に帰っていく。
ハッサンのママが帰るとき、自作の笛を吹いて見送りに行った。
ママは抱きしめてくれて、深々と手にキスをしてくれた。
本当に音楽をしていて良かったと思う。
自分が大切に思う人を、喜ばせることが出来るのは、生きる喜びだ。


ジャマルは残っていて、あれだけハードな日をすごしたのに元気一杯でたくさん一緒に遊んだ。
いくつかは知らないが、良い友達が出来た。
ここでは僕は何も知らないことばかりで言葉もわからずどうしようもないが、
彼はフランス語とモロッコ言葉をしゃべるが、僕には言葉以上のもので会話してくれる。


さすがに少し疲れを覚えて軽く昼寝。
客間のソファーで毛布をかぶりあっという間に。
起きるとかなり身体が冷えていた。
ここの日差しはいまだ強烈だが、部屋の中に入ると肌寒いといってよいほどだ。
リラのあとはなるべくゆっくりすごすものだ。


みんなで夕食をとる。
昨日のチキンとオリーブのタジンの残りだ。
ちょうど昨日素晴らしい踊りと演奏を見せてくれたグナウィのサイードが遊びに来た。
彼のプレイは華やかさでは群を抜いていた。
愛知万博で来日したことがあるということで、大変親日家だ。
グナワのバラカの最中に僕に向かって「日本の皆さんこんばんわ!」と正統な祈りの中に織り込まれて
ものすごくびっくりしたものだ。
食事時の客人はいつだって歓迎される。
ちょっと窮屈に机を囲んで食事。
きっとここを離れたら、食事の風景に少しさびしくなるだろうな。
どんな大人数でも、日本にいるときにひとつだけの皿からみんなの手で食べることはない。
なにより笑顔がたくさんある食事は素敵だ。
僕は会話の輪にはほとんど入れないが、一緒に微笑むことが出来る。
なんとなく雰囲気で内容がわかるときもある。


イードはなにやら用事を済ませ帰っていった。
有名な観光地であるフナ広場にいけば、観光客目的だろうがグナワをやっている彼に会えるかもしれない。
日本からもし誰か行くことがあれば、ハムダ(僕)のことを言ってやってほしい。


腹いっぱい食ってくつろいでいるとグレッグがハマムにいかないか、という。
ロッコの公衆浴場だ。
結構時間がたってからハッサンとジャマルも一緒に行く。
1キロくらい中心から離れた住宅街の中にハマムはあった。
観光できてたら絶対わからない。
受付で10デュラムを払い(値上がりしてたらしい)まずは脱衣所へ。
ここで注意が、パンツは脱いではいけないのだ。
脱いだ服と靴などはまとめて番台に預ける。
何が起こるかわからないから、ポケットはからっぽでいくようにといわれていた。


ロッコらしい部屋は天井が丸く、床はタイルで部屋ごとに小さな明かりがひとつでほの暗い。
部屋は三つあって奥に行けばいくほど熱くなる。
一番奥の部屋に入ってバケツにお湯を汲んで(これがほとんど熱湯)好きなところに陣取る。
寝転ぶとかなり熱いけど慣れてくるといい感じ。
お湯や石鹸の手配はジャマルがやってくれる。
グレッグから順番に、ハッサンが僕らの身体を洗ってくれる。
何度も言うが彼はこの地域でも尊敬されるグナワの司祭的存在マーレムだ。
しかしその実態はとんでもなく親切な、優しいお父さんだ。
またしても、なんだか涙が出てきそうだ。
しっかりゴシゴシと洗われる、こういうことは大人になってから初めてだ。
ロッコだグナワだということに関係なく、本当にきてよかったと思う。


ゴシゴシ洗われるのはマッサージみたいなものだ。とても気持ちよいが
この部屋、かなり熱い。
限界近いなあ、と思ったらみんなで一番出口に近い部屋へ。
ここは一番温度が低くて居心地が良い。人も一番多い。
サウナほど湿度が高いわけではなく、蒸気も少ない。
どうも床から直火であっためているらしい。
グレッグとハッサンとジャマルと、ニコニコと楽しく風呂にいる。
これを本当の裸の付き合いだというのだと思う。


僕らは最後の客みたいで結構せかされた。
熱気を冷ますために先に一人で外に出てオレンジの街頭の中に立つ。
月夜が綺麗だ。
みんなで出てきて、また迷路のような道を家路に帰る。
ジャマルはこの辺は庭みたいで一人で違う道に行っては先回りして待っている。
途中で彼はお使いに出てくれて僕らは先に家へ。


久々に客間に自分らの寝床を作り、水を飲んでくつろぐ。
ロッコ産の天然炭酸水らしい、火照った身体に非常においしい。
ここに来てから一滴も酒を飲んでいない。
飲みたいと思ったこともない。
普段の僕の日本の生活を知っている人は信じられないだろうな。
でも、そうなのだ。
出来ればその土地の風土の中で生活したいのが僕の旅の中の願いだ。
自分のスタイルをいつも強く持ち込みたいとは思わない。
いつも知らないことを知りたい。
この町では、その気持ちは満たされている。
 
 
 
 

12時の声を聞き、さすがに疲れてもいてあっという間にいつもより早く就寝