TAMESLOHTE

daysuke2008-11-07

朝9時前に目が覚める。
おきてから寝床の中でかんがえごと。


早めの朝食をアクセルたちの寝室で取る。
今日は豆のスープがついていた、これは肺に良いらしい。
tuba吹きのハムダにぴったりだ、とみんなが言う。
いつもおいしい朝食だ。
ついにスープにもスプーンもおわんも出てこなくなった。
全部綺麗にモロッコパンだけで食べる。


今日はいつもより早起きしたのは理由があって明日に行う聖なる儀式であるリラのために
いろいろと買出しに出ないといけないのだ。
そのためにみんなで出かける。
なんかあちこち行ってハッサンが警察らしき場所に入って出てこない。
どうも明日のリラを行うに当たって一言言っておくらしい。
前回は僕らが今いる家に200人以上来て大混乱があったらしいのだ。
結構時間がかかるので表でグレッグと口琴をして遊ぶ。
それでもまだ時間があるので、目の前にあった店に入って電話のプリペイドカードを物色。
一軒目は在庫切れで二軒目はコピーやファックス屋もかねている店舗、


ここで言っておくとヨーロッパやアフリカでは携帯電話はプリペイドのものが多い。
本体をもっていって国を越えてもその国で適したカードを購入して自分で電話の中に入れると
それだけでその国の携帯電話のいっちょ出来上がり。
このあたり、本当に便利だ。
僕の持っているベルギーのカードでも着信は出来るのだが、ローミングで着信にも金がかかってもったいない。
たったの30デュラムでモロッコ用の携帯が出来た。
これで旅中の緊急連絡や着信にも役立つ。
この迷路のような街で迷ったら、方向感覚に結構自信のあるぼくでもまず無理だ。
なによりこの国を好きになってきて、この国の携帯電話を持てたというのがなんだか少し嬉しい。
日本複雑なだけで高価で不便な携帯電話を持とうとは思わない。
これが僕が国内ではPHSを使っている理由だ。



ちょうどこれでいいタイミングでみんなが合流したのでまた出発。
いまからとある村に行くらしいのだが、そこは結構遠いのでタクシーを取ろうということ。
タクシー乗り場でハッサンが交渉。
その間、ハッサンが買ってくれたみかんを食べる我ら。
メディナではどこでも何でも売っている、のどが渇いたらすぐに果物が買えるのは嬉しい。
しかしタクシーは我ら外人がいるのでやはり値段が高かったらしい。
なので別の場所へ移動。
ガススタンドのあたりに人がたむろっている。
いろいろ当たってみるとようやく目的のものが見つかったらしい。


大型のバンで客席が12席くらいあるもの、これにどかどかと人が詰め寄せ立ち乗りもあわせて
20人弱詰め込んだところでようやく出発。
すごい人口密度だが、これがいかにもこの地らしくて楽しい。
道を行くと今日は矢鱈に警察の姿が多い。
聞くと王宮に王様が来ているらしい、それで警備が厳しいとのこと。
機関銃やライフルを持っている警備兵がうろうろしてる。
しかしこの明らかに積載オーバーの乗り合いタクシーはスルー。
一人当たり5デュラムで15,6キロくらい先のTAMESLOHTEという村まで行ってくれる。
えっと、60円くらいかな、なんという安さ。
ツーリストプライスで移動するととんでもない額を取られそうだ。


車窓から見える風景を眺めているだけで飽きない。
メディナから離れるととたんに人気がなくなり、新市街やリゾートホテルなんかが見える。
そのうち荒涼とした赤い大地に緑の感想に強そうな木々、バイクや車やロバ車。
テラコッタの壷が山と積んである家なんかもある。


途中で何人かが降りたがほとんどは同じところに行くらしい。
最終地点がこの村だ。いきなり広がるごちゃごちゃとした市場。
四天王寺の朝市を思いっきり荒々しくしたようなすごい雰囲気。
一気に興味がわくが、なんかきな臭くて気が抜けない。
東洋人はおろか白人の姿すらない。
ありとあらゆるものが売っているのも気になってしょうがない。
我らの目的は明日のリラで捧げる生贄の羊だ。
もちろん生きたものを買う。
うろうろ歩いていると羊売り場が見えた。
めえめえいってる。
ハッサンが品定めに行く間僕らは離れておく。
とにかく僕らが行くと何でもかんでも高くなってしまうのだ。

その間僕らはぼけーっと鶏売り場のあたりに立っている。
このあたりはそれはそれで強烈で、生きている鶏がたくさん柵の中にいて
それをぱっぱと手にとってナイフで首を掻っ捌き、ポリバケツに放り入れる。
当分鶏は暴れてバケツが踊る。
ちょっとしたら手を突っ込むと羽が血まみれの死んだ鶏が手にあって、
あとでまとめて煮えた湯の中に入れる。羽がむしりやすくなるのだ。


隣には鶏肉売り場があって新鮮そのもの殺したての鶏肉が売っている。
注文にあわせて刀のような大型のナイフで叩きながら切る。
人間の腕なんて簡単にざくざくになってしまいそうだ。
一連の作業が目に焼きつく。


どうもハッサンは羊を買うのをあきらめたらしい。
グナワの村であるここだとしても高すぎるという。
明日マラケシュで買おう、ということになる。
そのあと肉売り場が集まっているところにも行く。
足元には羊やヤギの頭だけが並べて売られていて、間を猫や犬が歩く。
横ではロバが草を食んでいる。
肉売り場にはこれぞ殺したての肉肉肉、苦手な人には発狂もののシーン。
僕はいつも見たかった屠場にいるようで楽しい。
これがリアルな食の世界だ。


残念ながらここあたりの写真は少ない。
どうしてもこのあたりの雰囲気はぴりぴりして撮りにくかったのだ。
余計なトラブルにはあいたくないし、ここではその可能性が高い。


羊の生皮だけ手に入れたハッサンと一緒に屋台風の店に入る。
表に炭火がありそこに買って来た鶏肉丸ごと一匹を渡して焼いてもらう。
奥にはベンチとテーブルがありそこでしばし待つ。
別のテーブルに水の入った壷とミントティを入れれるセットがあり、ハッサンがこれで入れてくれる。
セルフサービスなのが面白い。
いまさらながらだが、マーレムであるハッサンはもちろん尊敬される人物であるのだけれども
ものすごくまめにいろいろなことを普通に世話焼きしてくれる。
朝ごはんの準備会っていつもしてくれる。
えらそうにしているところなんて見たことがない。
このあたりもものすごく好感が持てるのだ。


今日も日差しは良くて夏のように暖かい。
Tシャツになって待つ。
待っていると楽器を弾きながら歌ってやってくる楽師多数。
擦弦楽器ルバーブや三弦の撥弦楽器もみえる。
なかなか面白いのだが逃げ場がなくさすがに小銭を上げるのも限度がある。
一番最初のおじさんが一番面白かった。
ほかにも手ぶらの物乞いが結構やってくる。
なんとなくあげる人にはあげる。


炭火でこんがり焼けた鶏がやってきた。
ものすごくおいしそう、いただきます。
ハッサンの友達もやってきて一緒に食べる。
塩やスパイスが振ってあって炭の匂いが香ばしく、そこにレモンを絞って食べる。
うまい!
さすが殺したてだ、殺して捌いて調理してすぐ食べるんだもの、うまいにきまってる。
ここらで食べる鶏は身がしまっていてあまり余分な脂が乗っていなくておいしい。
ロッコパンとミントティで食べる、最高。
途中でハッサンがパンに鶏を挟んで誰かにあげる。


あとで聞いたのだが今日は金曜日で、物乞いなどに食べ物やお金を恵む日であるそうだ。
クスクスの日、でもあるという。
異世界の習慣にどっぷりと浸る。
こうしている間にも物乞いが一人ずつやってくる、さして貧乏そうでもないのだ。


ハッサンが気を使ってさらに鶏半分くらい買い足しに行った。
残された我らで日向ぼっこをして待つ。
とにかくこの国に来てから待つことが多いが、それほど気にならなくなった。
この国に時間はあるが時計はない、僕も持たなくなった。
時間で区切られているものが特にないからだ。


いい加減物乞いにあげるのも無くなってきて断っていたら、あとで壁の向こうから
石が飛んできた。また僕に当たった。
アクセルが投げ返してストップする。
このあと店の中にいても気が抜けなくなった。


おかわりの鶏、いくらでも食えるうまい。
偶然取ったところに日本で言うぼんじりがついていて無茶苦茶うまかった。
満腹ご馳走様。
食べ終わったらお茶してごろごろして、いいかげんまわりも店じまいをはじめたので退散。
ハッサンがどこかに行っている間にグレッグと僕でピー。
特にトイレがあるわけではなく、市場の外側の離れた壁に向かう。
かえって来たハッサンが手から少しずつ何かを飲ませてくれる。
ものすごく良い香り、一瞬何かわからなかった、もしかして酒?まさか。
(回教国のこの国でまだ酒を見たことがない)
絞りたてのオリーブオイルだった。
こんなの初めてだ!なんておいしいんだ。
飲めるオイル、じゃなくて飲みたくなるオイル、だ。
すかさずマリーが追加を頼んでいる。
ロッコのオリーブオイルは有名らしくてお土産にするらしい。
ああ、日本は遠し。


市場の外壁の外をぐるりと歩いていく、人が少ない荒野が広がる。
この風景、一生忘れないだろう。
反対側には雪を頂いた山が見える。美しい。
市場から離れていくと雰囲気が変わっていく。
遠くに立派な城のような建物が見える。
昔のグナワの王のパレスだったらしい。
そっちのほうにみんなで歩いていく。
ちょろちょろと水の流れる小道などがあり、城門のようなところで止まる。
ここは昔、大切な泉だったらしい、今は枯れてしまってごみも多い。
昨日そういえば僕に出たタロットは泉だったっけ。


そのまま壁沿いに歩き、その城の中に入っていく。
中は明らかに中世の雰囲気を残す建物で、どこを見ても圧倒される。
これがグナワの王の城だったのか。
美しい彩の窓のようなものがある建物を指し、非常に重要な場所だという。
名をマラヴという。
そちらに近づき、中に入る。
急に赤い壁から白い壁へ、美しいタイル模様が広がる。
アクセルはこの中に入ってこない。


僕も入っていいものか悩むが誘われるままに入っていく。
明らかにマラケシュやよそで会う人たちと違う雰囲気の人たちが集っている。
初めて金をせびるでもない初対面の笑顔に触れた。
みんな歓迎の笑顔で迎えてくれて挨拶を交わす、アッサッラームアライコム。
美しい門構えの中に、入っておいで、と誘われるがいいのか悩むとハッサンがおいでという。
中はそれほど大きくない一部屋、天井は高く、前面に美しいモザイクがある。
中心には緑色の布をかけられた2mくらいのものがある。
グレッグに聞くと聖廟らしい、昔の聖人が眠っている場所だ。
ここは本当の聖地らしい。
グナワの聖地。


ひんやりとした中で胡坐をくみ、静かに時間をすごす。
小さな子供づれの人や、女の人が多い。
中に入ると聖廟に触れる。
僕らはひたすらじっと、何も話さずに時間を過ごす。
神妙すぎるわけでもなく、ただ、静かですばらしい時間だった。


ハッサンが薦めてくれて出るときに聖者らしき人にお祈りをしてもらった。
ここでもある、バラカだ、お祓いであり祝福である。
つぶらな瞳の老人の目を見て手に触れる。
小柄な聖者の老人は頭にアディダスの布の帽子をかぶっていた。
出口にいた数人から手を触れられて祝福を受ける。
出たところにいる女性に薦められて、泥のような茶色の物が入ったおわんに指をつけ
それで手を満遍なく塗りたくる。
それぞれの儀式にわずかな寄進をする。


ハッサンは友人が多いようで忙しい、若い女の子がみんなと挨拶、
この子は僕と握手したあと、ほかの人と話すときも僕の手を握っていた。
何か不思議な、普通な感じがした。
そのあとに白い広場の中心にある小さな噴水で手を清めて頭に水をつけて、
最後にビンの中に入っている何かいい香りのする水を手や頭につけた。
これですべてのバラカが済んだようだ。


広場を出たあと、何かすがすがしい気持ちになった。
この国にいるとどこにいっても警官も子供も老人も手を出して金金金とうるさい。
ここには違う人たちがいた。
してくれたことにはわずかだったが支払ったけど、何かが違う。
うまくいえない。
もちろんグナワのマーレムであるハッサンのお導きであり、僕らはその家族同然ということで
特別扱いはわかっている。
でも普通の、そして素敵にオープンな接し方がとても嬉しかった。
聞くと田舎にはまだそういう本来の伝統的なモロッコらしさが残っているのだという。
そんなことに触れれて、嬉しかった。


ハッサンは、自分で選んでグナワの道、グナウィを選んだらしい。
お母さんが巫女になり、その後にグナウィに。
当時家族は反対したようだ。
困難にしろ自分の生き方を選ぶということは大切なことだというのを見せてくれる。
グナウィとは音楽や伝統を守るものではなく、本来はグナワの道に生きるものたちをいう。


満ちたりた気持ちで帰り道に向かう。
ちょうど来たときについたあたりでバスを発見する。
これが有名なアフリカのバスの乗り方か。
降りる人がすんでないうちに乗ろうとする人が先を争って乗ろうとする。
もうここまでくると笑うしかない。
じっと眺めるだけだ。
そのあとにやってきたきたときと同じタイプのバンに乗り込もうとするが、これもまったく同じ。
大笑いしながら現地のみんなに習って乗り込む。


さようなら、グナワの聖地の村。
またいつか、必ず帰ってこようと思う。


車内ではハッサンがいろんな国の片言で話し始めて冗談を言う。
たびたび止まっては車の中には人が増えていく。
ぎちぎちのきゅうきゅうを楽しむ。


王宮の周りを過ぎて出発地点に到着。
車を降りるとなにかふわふわする。
現実感がさらに失われそうだ。
もはやメディナが日常になってきた。
スークのスパイス売り場に入っていってスパイス探し。
ちょっと時間が遅いのでいい店探しに苦労する。
何軒か交渉してスパイスが山と積んである小さな店に決める。
明日にリラに必要なものだそうだ。
次にお菓子屋に入る。
山のようにお菓子が積んであって満面の笑顔のおじさんが一口ずつ試食させてくれる。
うまい!
もちろんむちゃくちゃ甘いのだがもうこの甘さには慣れているし、
香りや複雑な甘み、どれもこれもたまらない。
ロッコのお菓子、恐るべし。
日本にあったらバカ受けしそうだ。
手に持って重い、と思うくらい箱詰めで買って帰る。


夜の街も今日は金曜だからかすごい人でメディナの中に戻ると人ごみもいつもどおり。
菓子箱が重いので髪をといて頭上に載せて歩く。
たまにモロッコでもおばさんがこうやって重いものを運んでるがなるほど、結構楽だ。
長身のグレッグはどこを歩いていても注目の的だし、長髪でアジア人、頭に箱載せてる僕も目立つ。
うまくいえないけど、なんかいい感じなのだ。


家に戻ったら僕はネット、グレッグは食事の準備手伝ってpc作業。
ハッサンの家族が何人か家にやってきた、挨拶を交わす。
明日のリラの相談だろうか。
夕食の用意は出ているのだがなかなか始まらないので読書。
哲学の東北、借り物の対談集だ。
ロッコ宮沢賢治のことを読むのは面白い。


かなり時間がたって夕餉が始まる。
グレッグの「即興タジン」だそうだ。
何か肉の塊と野菜がたくさん入っている。
トマトと蕪、やはり芋が滅茶苦茶うまい。
いったいこの芋は何なんだろう。
たまに日本で見るアンデスだかインカだかの名前のついた芋があって
あれに少し似ているけど、くらべもんにならないほどうまい。
ジャガイモに栗とサツマイモを掛け合わせたようなうまさ。
見かけは大きな赤い皮のジャガイモだ。
食感も甘みも大変好みだ。
ロッコを離れたら絶対これが恋しくなるだろうなあ。


黒い肉片を食べてみると歯ごたえがあって匂いも強くこれまた結構。
なにこれ?と聞くとヤギだという。
羊だと思ってた、あの昼間にぶった切られていたヤギちゃんか、うまいなあ。
しかし途端に女性陣の手が止まる、おかげさまで腹いっぱい食べれた。
砂糖なしのルイーズティーを飲んでのんびりしているとなにやら外から音がする。
なんかむずむずするようなたまらない音楽だ。
ハッサンに聞くと結婚式の音楽だという。こんな夜中に!
たまらず飛び出していくと家から離れていく隊列を発見して追いかける。
デジカメを動画モードにしてパレードに追いつきじっくり観察。
頭上に大きなタジン鍋のようなものを抱えた人たちがたくさんいる、あの中にはお菓子が入っているらしい。
馬車が数台、演奏はガイタと呼ばれるダブルリードのチャルメラと撥で叩く太鼓、ベンディールなどだ。
手拍子や囃子の越えも激しくてすごくかっこいい。
やはり早い三連系のリズムでモロッコの民俗音楽であるグナワやシャービーやハイサワーに共通する。
何より良いのは、これがお祝いのための喜びにあふれていて、フナ広場の金目当ての演奏とは
まったく質が違うことだ。
こんなのマラケシュのホテルに泊まっていたら絶対見ることが出来ない。
すばらしい幸運だ。
歌が重なって感動的に盛り上がってジ・エンド。
本当にいい。


一度切れた音楽はすぐに太鼓のリズムを取り戻しまたパレードで進んでいく。
メディナの夜の、夢のような瞬間だ。
この動画は宝物になるだろう。


帰って興奮冷めやらず、元気になりお茶をまた貰う。
何か音楽をかけて、といわれてEttの無茶の茶をかける。
アクセルが気に入ったようでボリュームを上げる。
ハッサンはその隣で気持ちよさそうにうとうととしている。
夜遅くまで日本の話をたくさんした。
とてもよい時間だった。


明日はいよいよこの家でリラが行われる。
今回の滞在の最大の目的のひとつでもある、グナワの聖なる儀式だ。
今までも人生がひっくり返るほどの体験をしているというのにこれ以上何が起こるのだろう。
ずっとこの地に通い続けて、グナワ音楽を学んでいるグレッグですら
リラを体験するのは初めてだという。
僕などはまったく想像もつかない。
何も考えないで、ただ感じていよう。
ますますここにきたのは、何かを得るためではなく、少しの間ここで生きるために来た、という実感を持つ。