marakesh,meet with gunawa

少し遅くまで眠る。
三人はすでに朝食を終えたところで中庭で一人で食事を取った。
四角い空は初めてのスカッとした青空がくっきりと青い。
豆のスープ、濃いハーブティー、フランスの蜂蜜、モロッコパン。
オレンジジュースが絞りたての濃厚でおいしかった。


ハッサンに客人が来ている、
聞くとアメリカで活動している有名なグナワ、ハッサンハクムーンの母上らしい。
このうちにいると毎日がすべて、グナワだ。
階上に上がると屋上から山が見える。
もし天気がよければ、あの山に登るかもしれない。


中庭に面した客間で楽器を吹く。
グレッグはゲンブリを借りて弾き出した。
あわせてみるがものすごく難しい。
最初からゆっくりしてもらって、フレーズをなぞって演奏してみる。
なかなかうまくいかないながらもおぼろげに追いかけられるようになってきた。
ようは歌だ、しかしこれがもともとからだにないのもので、身体と心を開放しないと出来ない。
tubaでやるには非常に大変、なにせゲンブリの構造に沿って出来ている曲だ。
毎日少しずつレッスンをつけてもらおうと思う。


こちらにきてほとんど時間をチェックしていないので良くわからないのだが
昼ぐらいにアクセルとグレッグと一緒に出かける。
ここは市場であるスークの近く、旧市街のメディナの中だ。
すぐそこが観光地でもある広場で、地元民も観光客も売り子も路上演奏もごったたがえしている。
今日は綺麗に快晴で気持ちが良い、町は夜とはまた違った顔に見える。
広場近くのカフェに入って食事を取る。
観光客も多いなか三人でタジン、僕は牛肉とプラムのタジン、二人はチキンのタジン。
ロッコサラダをシェア。
サラダはうまいけどタジンはまあまあかな。
ついてすぐに店で食べたのもそうだったけど、アクセルの作ってくれるタジンのほうがおいしい。
肉が入っていてこっちのほうが豪華に見えるけど、思い込みじゃなくて野菜などのうまみが違う。
逆に嬉しい発見だ。

途中で銀行で両替をする。
前の白人カップルが異様なほど手間取っている。
待っている間に物乞いの女性がやってくるが断る。
物乞いもかなり多い、女性は伝統的な服装をして顔も隠している。
パスポート持ってないと両替できないよ、といわれるが、すんなり出来た。
ちなみにパスポートは持っていたほうが良いみたい、そこらを歩いている警官に
職質されて不携帯だと金を巻き上げられたりするらしい、今後は気をつけよう。
両替はだいたい1ユーロ=10デュラムくらいだ。
物価はヨーロッパに比べれば安い。


今日からアクセルの友人がやってくるということで、迎えに行く前にスークのあたりでショッピング。
実はこっちに来て座っていると、靴磨かせろ、というのがうるさい。
黒い靴はいてくるとこういうことになるとは知らなかった、しかも家の中で皮のブーツでいるのは厳しい。
ロッコの名物のバブーシュを買いに行く。
そこに行くまでの風景ももう幻想の世界、迷路の中にありとあらゆるものが売っている。
革製品の多いとおりに行くとバブーシュ屋がたくさんある。
お勧めの場所があるということで連れて行ってもらって、まずは室内用のスリッパのようなものを物色。
紫色の先のとがった伝統的っぽいものにする。
14,5デュラムのものを二人が10デュラムにしてくれた。
これは革底の薄いもので外歩きには向かない、ゴムソールがついたものを近くで探す。
ここは若くて英語しゃべれる店員がいて、結構面倒くさい。
また15で吹っかけてくるのでアクセルが怒り顔でなんどっも帰ろうとししまいには離れてしまい、
グレッグが交渉してくれて結局10になる。
いちいちこの値切る労力が必要になると思うと買物が嫌になる。
 
 
 
 
 
 

しかし街は楽しい


しかも後日談だが、あとでハッサンに聞いたら紫のやつはいい奴でモロッコプライスだが
ソール付の黄色いほうは、もう少し安く出来た、ということ。
まあこういうこともあるさ、それでもひとつ千円程度ときている。
長いこと大事に使いたい。


ほかにも方々歩く。
比較的方向感覚の良いほうの僕でもこれは混乱する。
本当にでたらめに作った迷路の中にいるようだ。
売っているものの数も膨大でめまいがする。
一つ一つ見れば興味がわくのだが、見ているのが嫌になるほどある。
旧スークの奥では元奴隷市場だったという場所に連れて行ってくれた。
たしかにほかとは町並みが違う、伝統的な格好をした人たちのほうが多い。
とはいえ少し行けば「ヘイ、マイフレンド!」攻撃の連続。
お前は俺の友達じゃない!友達だったらお前が金をくれ!


グレッグはジュラバという上からすっぷりかぶるフード付のモロッコの伝統的な上着をオーダーで
作ろうと思っているみたいだけど、なかなか安いのがないらしい。
彼は身長が高いのでどうしてもオーダーしなくてはいけないらしい。


待ち合わせの時間になってきて広場近くに行くとトランクに座った女性がいた。
彼女がアクセルの友人のマリーヘレンだ。
挨拶をして空腹の彼女のために近くのカフェレストランへ行く。
僕らはミントティを貰い彼女はタジンを。
もう砂糖をたくさん入れないと物足りない身体になって来ているようだ。
僕らが来るのに大変苦労した話をすると、彼女はベルギーを発つときにパスポート忘れて大変だったらしい。
フナ広場からはそろそろミュージシャンたちの演奏が聞こえる。
昨日も耳にしたシャービーだ。非常に興味があるのだが、20秒も聞いていると金をせびられて
それが延々と続くので閉口していく気がしない。
こうやって聞いているのもいい感じだ。
 


家に戻る前に電気屋街にいってヒーターを買う。
僕らが使っていた部屋はマリーが使うことになり僕らは客間に移る、
ここはドアがなくてカーテンが引いているだけで夜はかなり寒い。
夜に差し掛かる中、家に戻る。
馬車や3人乗りバイクや自転車を乗り越えて、もちろんしつこい物売りもパスして。
ダラブッカを抱えた二人が歩きながら歌いながら通り過ぎていく。
金をせびるでもなく雰囲気がほかあのものとずいぶん違うのでグレッグに聞くと
これはハイサワーという(発音は違うかもしれない)もので、グナワとは違うモロッコのトランスらしい。
ジャジューカとの関係もあるかもしれないらしい。
また興味がわくものが増えてきた。


家に帰ってから部屋の荷物の移動。
客間にあったたくさんのゲンブリを2階に移動して僕らの部屋作り。
ひとつのソファーで僕は十分で、グレッグもソファー二つあれば十分だ。
くつろいでいる間にグレッグとなんとマーレムハッサンが夕食を作ってくれている。
旅人がグナワに飯を作ってもらうことなんてあるのだろうか???


アクセルの部屋のpcを借りて初めてネットをする。
最初は自分のpcで繋いで模様と思って試したのだが、ADSLルーターがUSBで繋ぐという
見たことのないもので、ドライバCDが必要なのだがそれがここにはない模様。
ヨーロッパ使用のキーボードが久しぶりで使いにくい。
ネットはAJAX IMEというネット上で日本語変換できるところに久しぶりに接続して何とかやる。
最小限だけメールを返信してミクシィにとりあえず無事を書く。
できればはてなの日記用に書き溜めた文章と写真もアップしたかったのだが
言語の関係でうまくいかなかったので断念。


そうこうしているうちに階下から「ごはんですよ〜」の声がかかる。
降りると客間で夕食の準備。
大皿に今まででも一番多いタジン、モロッコパン。
大皿で食べるときに取り分け用の小皿は使わない。
すべてパンで食べてうまくすくわないといけない。
肉も入っていて野菜も豊富で豪華、とてもおいしい。
やっぱり芋が滅茶苦茶おいしい。
八百屋で見たら皮が赤くて大きかった。
とにかくこれがおいしくてたまらない、豆もうまい。
贔屓や新密度を除いても、今のところ食べている店屋物のタジンとは比べ物にならない。
高級店に行けばまた違うのだろうけれど、ここでも家庭の味が一番、ということだ。
そしてみんなでニコニコと笑いながら楽しく食べるのも嬉しい。
パンで最後まで切れにふき取って食べるのは僕とグレッグだ。


洗物して戻ったらマリーがお土産にベルギーのチョコをたくさん持ってきていた。
甘いものが大好きな皆でいただく。
見たことのない赤い唐辛子入りチョコは食べてかなりあとから辛さが尾を引く。
そしてショコトフという、「食べたら5分はしゃべれないわよ」というものをいただく。
中にねっとりとしたキャラメルというかもっと濃厚なものが入っていて、確かにこれは、
と思うと、あ、やっちまった、左下奥歯の銀かぶせが外れた。
これで笑いを取れなあきゃ大阪人の恥だと、フランス語会話の中に飛び込んでアホ面下げて
笑っていただく。
マリーは、うわちゃあ、ごめんってな顔してたけど、ほかのみんなの爆笑とこちらのアホアホで
一緒に笑ってもらった。
チョコの包み紙で取れた銀歯を包んでかばんにしまう。
いい土産話が出来たときたもんだ。


昨日もやったのだがグレッグがタイで買ってきたスネークキューブという木のおもちゃで遊ぶ。
グレッグは後ろ向きでも出来るくらいなれてるが、結構難しい。
いきなりやらされて戸惑うが、なんでか一発で出来てしまう。
みんなでまわして、苦手そうなアクセルも昨日は出来なかったハッサンも完成。
そのたびにとんでもないバカ面で大喜びして奇声を上げるグレッグがものすごくおかしい。


片づけをしているときにふと思った。
ここにいると僕は完全に子供のようだ。
外の世界のことはほとんどわからない、言葉も物事も僕はここで一番無知で
見るもの聞くものすべてが新鮮で面白い。
どこにいっても周りの友人たちに頼りっぱなしで、自分が35歳のおっさんであることを完全に忘れる。
行動も精神も5歳の子供と変わらないと思う。
それでいて周りの人たちは、ありのままの接し方でいる。
言葉のまったく通じない子供のころにいろいろな人の家でお世話になったときと
非常に似通った気持ちで人といる。
ヨーロッパにいたときも良く思ったが、ここにいるときはもっともっと子供のころの自分に戻るようだ。
悪意や懸念、そんなものと無縁な、あのころそっくりに。
年齢に即した人のありよう、なんて社会的なものなんだ。
そういうところから気がつけば離れて、なんて気持ちよくいれることか。


今日途中でグレッグに言ったんだっけ。
このモロッコ旅行はすでに成功しているんだって。
ハッサンとアクセルとここで会えて、グレッグと一緒に来ることが出来ているこの時点で。
新奇な事柄に触れることや土産になるものを手に入れるよりも、未知の世界に出会うことよりも
自分がなんなのか、知らない町で知ることが出来るかもしれない。


寝る前に少しネットを借りていろいろ挑戦してみるが今日中にはうまく行かないようだ。
フランス語設定でモロッコ独特の接続設定されているpcは難しい。
自分のpcではまだ出来なそうだ。
もう皆が休んだあとに一人で就寝。