go to morocco

起床は3時半。下手すれば起きている時間だ。
荷物はまとめてあるので簡単に準備し4時15分に車に乗り込む。
昨日も運転してくれていたひげのおじさんはこのあたりの建物を住み込み管理人をしているらしい。
空港までは10分もかからない、しかし目前で僕が家にキャリーカートを忘れたことを思い出す。
こんな朝に車出してくれてるだけで申し訳ない。
パルドン、ムッシュー。
もう一度空港に戻りおじさんに厚く礼をいい中へ。
チェックインカウンターでがっくし、6時半の出発に合わせてきたのに、4時間延期で10時半出発。
この時点でまだ5時前。
家に戻って寝るか、という話もしたが、まあいいじゃん、と空港にいることに。
お詫びがてらに6,75ユーロ分の飲食券を貰った。
パン屋が開くのを待つこと8時まで。
やっとのことで開いたパン屋は激高でしかもこの券使えないでやんの。
別にカフェに移り、コーヒーとサンドイッチ、これで金券使いきり。


グレッグと甘いものとかも食べて、さあもうそろそろいい時間なのでボーディングに、
と思ったら荷物トラブル。
手荷物で平気で持ち込める程度の大きさのものでいちゃもんがつく。
まあ僕のは何とかなるが、グレッグのバリトンサックスを持ち込むことならず、というではないか。
それは困る、と別のカウンターにいってグレッグ必死の交渉。
なんか全然融通が利かないみたい。
エクストラチケットを買え、というのであるが、航空会社に電話して買わなくちゃいかん。
そんなあほな、目の前に居るのに。そして会社は10時まで開かない。
これはもう無理だ、ということでグレッグはバリトンをタクシーで家に帰っておいてくることを決断。
これはものすごく悲しいが、どうしようもない、ということだ。
口琴と現地で借りるグナワの楽器と、レコーディング機材一式が彼の楽器ということになる。
僕のtubaはすでにハードケースの上にソフトケースぐるぐる巻きにした状態で預け済みだ。


グレッグが帰ってきてからボーディング。
荷物検査がまた異様に厳しくて靴も脱がされチェックされまくり。
グレッグは口琴がひっかかったようで、証明のために係官に向かって演奏してた。


さあ、水でも飲もうかと売店に行ったらめんたま出るくらい高かった。
ここはさすがに僕が出すよ。
しかも乗り込むのがさらに遅れる。ゲートはなかなか開かず結局中に入ったのは11時。
それまであまりに暇だったので廊下に座って口琴やってた。
昔取った杵柄で簡単にレクチャー。教える仕事、してたもんなあ。

機材で座るとなぜかマフラーにいたるまで手荷物を許されず上のトランクに入れさせられる。
離着陸時には本を読むことも許されない。なにこれ?
この乗り込んだ空港であるシャルロワ空港は小さいのだが新しいらしく規則でがんじがらめだ。
窮屈な思いで3時間ちょっと、海を越えていよいよモロッコカサブランカに到着。
警官が矢鱈に多い中を何とか無事に通り、荷物を受け取る。
思いっきりケースの一部がぶち割れているが中身には損傷なし。
帰ったら修理するとしよう。


パックしてまずは駅へ。
駅はすぐで助かるが、ここはどうも名前だけでカサブランカではないらしい、ここから中心地へ移動。
これがまた電車が遅れる。違う国に来たことを実感する。
45分くらいか、乗っている間外の風景を見ていた。
地面が赤い、草の丈が短い、動物が放し飼いでそこらじゅうにいる、そして線路沿いにスラムにしか見えない
集合住宅があちこちにあるのが印象的だった。
そこで広げられていた洗濯物の色の鮮やかさも。
なにもないといっても良い風景に見飽きることがない。


乗り換えの駅で一度降りて、1時間半くらい時間があるのでカフェで食事。
小さなタジン、ケフタ(ひき肉)だ。ミントティも頼む。
熱くておいしいミントティ、タジンはまあまあだが空腹にきく。
表は雨が降り肌寒くなっていく。


時間が来たのでホームに移動すると、今度は50分遅れ、の表示。
もうめげることはない、と思い時間をつぶす。
日本でも移動中に時間をつぶすことが多いのでそうそうへこたれない。
いい加減時間になる、というところでホームで電車を待つ。
これがまた全然来ない。あきらめたころにやってきた電車にものすごい数の人たちが群がる。
何とか乗り込んで見るが居場所の確保に不安、グレッグが謎の真っ暗な部屋を見つけてくれたので
そこに行くと労働者風のひげのおじさんがいるだけで、荷物も置けてラッキー。
あとから電灯もついてひと安心、ここでたくさんの人たちが入り込んでくる。
めいめい荷物の上に座って時間をすごす。
だいたい3時間ちょっとでつくということ。


座っていると眠くて眠くて仕方がない。
なにせもう昨日ブリュッセルを出てから24時間以上たっているし、朝からでもすでに17時間くらいか、
とうに日本についていてもおかしくないくらい時間が経過している。
まあこのくらいの時間の移動は平気なんだが。
とにかく寒いのがたまらない、ベルギーと変わらないかんじ。


さらに追い討ち、3時間たっても全然つかない。
なんでも雨水のせいで大幅に遅れているらしい。
ああ、アラーよ。つくづく試練を与えてくれるものだ。
電車の中で連絡を取ったところ、グレッグの友人でグナワのマーレムであるハッサン氏は
現在家で体調を崩しているらしい。なんてこったい。
タジンがあなたたちを待っている、とのこと。
もうあまりのディレイでありえない初めての国の列車で寝こけるは、pc出して現在日記を書いている。
いつになったら到着するのかまったくわからない、まさに神のみぞ知る。
 
 
 


予定の時間より1時間半以上(もうこの時点で時間のことは何も気にならなくなっていた)遅れて
ようやくマラケシュに到着。
うらびれた駅ばかりだったのだが、さすがに有名な場所で終着駅、ものすごくきれい。
マクドナルドがあってびっくりした。どんなだろう。
タクシー乗り場に行ってグレッグが交渉。
フレンドリーな顔してるうんちゃんたちだが、グレッグはすぐに立ち去る。
ちょっと乗り場から離れたところで待機、聞くといきなり相場の五倍、というそうだ。
なんとか若い運ちゃん捕まえて交渉、いったん荷物載せて乗り込んでから交渉、
いきなり降りちゃうグレッグ、あの、後部座席のドア、内側から開かないんですけど・・・。


そういった込み入ったことをしてやっと交渉成立、うわあ、面倒くさい。
街中の広い道から奥へ行くと城壁のような大きな壁が現れる、近くには人通りも多く、
屋台も出ている、夢に見たようなモロッコの風景。
少しウクライナの風景を思い出させる。
あっという間に方向感覚がさっぱりわからなくなる。
うわさに聞くカスバか。
どうも運ちゃんが道も住所も良く知らないらしい。
グレッグの説明でようやく到着。
降りた瞬間に少年がやってきていくつかの言語で話しかけてきて手伝おうとする。
いらないということを手振りで示すがいつまでもついてくる。
目的地のドアは本当にすぐそこで、白人の夫人が開けてくれた。
そのぎりぎりまで金をせびる少年、なんにもしてないのでなんにもあげない。


この女性は今回お世話になるグナワのマーレム(この音楽のリーダーである演奏家)であるハッサン氏の夫人でベルギー人の
アクセルさんだ。
こちら独特の毛布のような上着を着ている。
聞くところによるとハッサン氏は体調が悪いらしい。
荷物を置いたらハッサン氏の寝室へ案内される。
どこに行っても初対面が苦手な僕はタダでさえ緊張する。
なんといっても長年あこがれたグナワの本物のミュージシャンだ。


ベッドに寝ていたハッサン氏が起きてきた。
つぶら黒い瞳の白髪のおじさん。
グレッグと再会の挨拶を交わしたあとは僕の番だ、挨拶の頬寄せキスが親愛の深さを示す両方だった。
彼らはフランス語で会話するから僕にはさっぱりわからないが、非常に優しい雰囲気だ。
早速食事をいただく、それが寝室で。
ハッサン氏、具合悪いのに起きてきて一緒に食事を取る。
アクセルさんの手作りのタジンは野菜のタジンだった。
僕がベジタリアンかどうかわからなかったからこれにしたらしい。
ヨーロッパらしいもてなしだ。
タジンに関しては僕も良く知らないが、こちらの煮物のようなもの。
三角帽のようなふたのついた陶器の容器に入っていることが多いが、今回は普通に鍋から大皿に。
丸いモロッコのパンをちぎって浸して右手で食べる。
これが初めての手だけで食べる食事だ。
ちょっと熱い、うまいこと具をつかんで食べていく。こぼさないように気をつけないといけない。
見たところにんじんやたまねぎ、ズッキーニや芋などがたくさん入っている。
野菜の甘みが折り重なるようにおいしい。
特に芋、栗のような食感と甘みがとてもおいしい。
アクセルさんも一度手で食べるとスプーンやフォークは金属の味がして嫌だ、という。
僕も子供のころからそれが好きではなかった。
手で食べるのはとてもおいしい。


最後の部分だけ気を使ってくれてスプーンが出てきた。
なくてもいけそうだ。
フルーツとデザートとお茶が出てくるころにハッサン氏はおやすみなさい。
その傍らで僕らは雑談を続ける。
アクセルさんはコンゴ生まれのベルギー人でずっとモロッコにいるみたい。
英語はダメだしフランス語も下手になってきた、という。
僕なんか英語は猛烈に下手糞だしフランス語はからっきしでこの地ではまるで役立たずだ。
しかしアクセルさんの顔を見て話しているとすごくいい感じがする。
目を見て顔を見て話しましょ、というのがわかる。
グレッグが訳してくれるので幸いだ。
だんだん日本のことに関する質問になる。
それもただの風俗ではなく、政治や戦争、教育について。
いいことが何にも言えない。うそやごまかしも出来ず、自分のおかれた状況を話しても
あまり気持ちよいことが言えない、非常に申し訳ない。


フルーツはみかんや洋ナシ、ザクロ!
食べるのは30年ぶりだ。甘酸っぱい食感。
お茶はミントティではなく冬用のモロッコティーだそう。
ちょっと苦味が強くて中国茶に似ている、砂糖はもちろんたっぷり。
急須を高く掲げて注ぎ、空気を混ぜてお茶の表面にたくさんの「目」ができるといいという。
香りが混交されていいのだと思う。
2番目のお茶には強い香りのするハーブティー
さすがにこの時点で移動始めてからほとんど24時間経過している。
さすがにくたびれてくるグレッグ、僕はさっきまでへろへろだったのに話をしたら
元気になってきてしまった。
明日はいい話をしよう。


シャワーに浴びる気力もなくベッドメイクをして二人部屋で寝る準備。
毛布がものすごく分厚くて大きいのがモロッコらしくて嬉しい。
グレッグは身長が2m7cmあるのでベッドを作り足している。
電灯を消して寝入る。ほんの少しだけ強い興奮が残って寝れない感触がある。
何か強くやさしい印象をまぶたの裏に見て、きがついたらもう夢の中にいた。