日本橋(pontdujapon)@パリ・ギロチン

daysuke2007-09-15

なんだか壮絶な一日の始まり。


早朝にエヴリンに起こされる。
今日は7時半出発の予定、慌てて飛び起きて会場に上がりメンバーを起こす。
人を起こすのは結構得意だ、なぜならそれは嫌がらせみたいなものだから。
人の心を読めばよいのだ。
変な歌歌いまくって踊ってたらみんな起きる。迷惑な男だ。
運転手のパトが一番寝ぼけている。
テーブルを見るとウィスキーのボトルが・・・相当飲んでたんだろうなあ、みんな辛そうだ。
それに比べると自分は平気なほうだ。
このあたりを記憶にとどめておこうと朝もやの中を少し散歩すると例の鴨の家族が道路を散歩していた。
 
非常に気持ちが良い。

何とか揃ったらパトの車に乗ってダビッドの家に出発。
ところがパトが寝ぼけている上に泥酔で帰ってきて帰途の記憶がまったく無く
僕等以上に道を覚えていない、のでだいぶ迷う。5分の距離なのに。
超不機嫌な彼に指示して何とか到着。


皆もごそごそとだビット邸から出てきた。
そりゃあ全員物凄い眠そうだ。

積み込みの算段やあれやこれをしてなんとか分乗して乗り込むことに。
ここでオリヴィエ登場、ライブ初日にあったやくざな雰囲気漂うジャグラー
横にはゴルゴ13の中に出てくる女スパイみたいなロシア美女、車は前までヨルダンで走っていたベンツのリムジン。

もう、漫画みたいな組み合わせである。
この車に、乗ることになった。
革張りの8人乗り、走っているだけで大笑いだ。
いきなりノエの車が押しがけでもかからなくなった。
こちらでは大体2回に1回は押しがけだ、お兄さんであるオリヴィエの車でロープ牽引して発車。
エンジンかかったとたんにロープが切れた、が始動成功。
これにて全員出発進行。
寝たり馬鹿話の繰り返しで高速道路ドライブ、途中のドライブインで数年前の旅を思い出す。
気がついたら国境越えていた、フランスだ。
少しだけ、ベルギーより広々とした印象。


車が混みだしてきて大都会の様相でパリ突入を知る。
人が多い、ここ1か月でだいぶ田舎ものになってきたぞ。
記憶にうっすらと残る石畳の感じ、30年ぶりのパリだ。
高速降りてから程なくして会場の近所へ。
降りると顔ぶれはほとんど黒人で、本当にここはパリなのか?
アフリカに連れてこられたのではないか、と錯覚するくらいだ。
もちろん、わくわくする。観光地に用は無い。
女性オーガナイザー、リシカと挨拶、こちらではほっぺにキスは両頬で2回、ベルギーは1回。
中に入るとちょっと古くて汚くてスクワット的な感じもちょっとする、楽しそうだ。
1階にフロア、2回は広い楽屋がどどーんと。

またしてもまとまりに欠けるミーティングではあるが、今回はPAも一番きちんとしている様子だし、
照明などのスタッフもきびきびしている。
情報系統にまとまりが無いのはこちらの問題だが、いつもよりは楽そうだ、と思った。


ひとしきりご飯を頂いて、みなで沢山食べる。
その後は特に何かをやる指示が無いので中をふらふらする。
この会場、ギロチンというのだが、付近の様子を眺めると本当に黒人、それもブラックムスリムばかりで
関係者以外ご法度な感じのマーケットなど非常に興味深い。
他人の縄張りに土足で上がる趣味は無いので遠巻きに眺めるだけだが。
会場エントランスから建物内に入るところには、なんだか奇妙なものが、
ガラスが吹っ飛んだ乗用車が斜めに乗り上げていてそこにかなり解体されたピアノがぶち込んである、
背後の狭い木の階段途中にはオンボロドラム、上にはサックス奏者とノイズ、とドラム。
 
よく見るとあちこちに配線が張り巡らされており、手作りのスピーカー多数に繋がっている。
リハを見ると図形楽譜で合奏している、感じはインプロっぽい音。
さすがミュージックコンクレートの国、と外人は思った。


全然指示が来ないのでほったらかしにしてでぐっちゃんとお茶をしに出かける。
フランスはトイレ事情が大変悪い、ギロチンのトイレも地獄みたいなのと、何故か便座の無い洋式。
子供の頃これがイヤで便所潔癖症になったのだった。
トイレ仮に行くがてらにお茶というコース。
近所大量の黒人街を抜けて少しの角のカフェで。
表で二人でティーオーレ。沢山入っていて、とてもおいしい。ゆったりした時間。

色々とはなし。


戻ったらそこそこ準備は済んでいて、何も言われていなかったサウンドチェックを急いでやるように
言われたがエンジニアもいないしどうしようもないので、先に夕食を頂く。
美食の国フランスはパリにようこそ、だがたいして特別の感じはなし。
ビールがまずい、ぬるいと全部飲めない、無理だ、ベルギービールしか飲んでなかったらこうなるのか。
ワインがこれまた何故かえらいまずい、日本で飲んでいるのよりも好めないので却下。


階下に下りると客入れがはじまっていてがなりたてるような口上言いまで用意されている。
かなりの入場者数だと思う。

エントランス中には例の車バンド、なんとエンジンがかかるようでぶるんぶるん言ってた。
そのうちバタバタと、開演、今日は今までのピンポンショーを下地に、少し変わったものにしている。

子供鉅人、デグルチーニ、セプテンバリスト、そしてファンタジオ、ミチ。
劇団主宰マー君の謎の芸者口上オープニングからミチソロ、セプテンバリスト、デグルチーニ
二つあるステージを一曲ずつピンポンしてやっていくという今回の日本橋ツアーのやり方は
ここでもばっちりはまる。PAはいつもより強力だが、ちょうど客席の半分くらいのところで
音が途切れるのが少し残念、向こうの音がなかなか聞こえない。
モニターに返す了解事項が取れていない模様だ。
このあたりは至極良好。


子供鉅人の劇を挟んで2部、いよいよファンタジオ登場、ベルギー勢の皆が絶賛していたバンドだ。
初めて見るのはバンド名と同じ名のベーシスト、ファンタジオとドラムに座りトロンボーン吹き、いろいろ
慌しくやりまくる男のデュオ。
このステージでは即興的交歓やセプテンバリストとの同時異曲演奏など、実験的な試み。

ちょっと音が届きにくいのが残念だったが、後でファンタジオ(個人)曰く
届きそうで届かない、それに手を伸ばす感じが良かった、と言われた。
完成品より未完成品を愛するのか、ならばこそ。


ここでカンジのダンスとエリックとマルタンと僕のセット。
ここに備え付けであったらしい巨大扇風機で膨らむバルーンの中にカンジが入り込んで
ミュージシャンで即興演奏。
客の集中力が散漫、まあしょうがないか、そこで張り詰めたものを造るのは難しい。
マルタンは基本的に即興は苦手だ、にしては健闘したと思う、エリックは独立した素晴らしい演奏。
僕はと言えばどちらかというとマルタンの演奏に対比するような(対応するようなではなく)音。
そんなに悪くは無かったと思うが、最終的に客席がうるさいのと幹事の姿を捉えることが出来なかったのが残念。


3部、ちょっとちょっとした手違いはあったものの途中まではなんとか進んでいく、
セプテンバリストとデグルチーニメンバーとの合奏タイム、これが非常にやりにくい、
お互いの音がまったく聞こえない、距離が結構ある上にPAの返しがお互いに皆無だ。
もうどうしようもない、何度も手で合図を送ってやったりするがわからない。
まあそれでもまだマシだった、最悪はこの後にやってくる。


ここで奴が来た、リエージュ以来ずっと着いてきている謎の男、通称ブルーマン
青い服しか着ないこいつは幾度と無く我らのステージを乗っ取って台無しにしてきた、
殴ろうかと思ったことは一度ではない、しかしなんでも受け入れるマチューがオーガナイザー、
彼が必要なのなら、俺が殴る道理は無い。
最後の最後の曲、踊りあがってきた奴がマチューのマイクをつかみわめき散らす。
曲の構成もムードもへったくれも無い、ただただ自己顕示欲だけのエゴ。
さらに最悪なのはこいつら、客も客だ。
日本でもっとも嫌いな客層、アゲアゲゾンビと一緒だ、こいつらは。
盛り上げてくれるなら何でも良いのだ、真摯さもクオリティもいらない。
もはや全ての気持ちは冷め切った、楽器を下ろしステージを降りる。
マルタンですら叩くのを止めていた。
これをマチューが受け入れるのなら、そうすればよい。
俺はステージを降りる、金を貰う仕事をするだけだ。


もはや何も見届ける気持ちも無く会場に上がり、さりとてまずいビールとまずいワインなど飲みたくも無い。
階下ではまだ何かが続いている、ファンタジオだけ見に行ったが、悪くも無いがまあまあだ。
なんでも受ける客のなかにいるのがいたたまれず飛び入りでもしようかと思っていたのを鞘に収め戻る。
控え室で桃を食って本でも読んで過ごす。

なんか今後のセッションとか何とかいう話が来るが、やる気が無いので断る。
やはり案の定、ろくなことになっていなかった。
ずるずると待たされた上に挙句の果てに旧にやれとせかされる数時間など付き合っちゃいられない。
せいぜいエゴの垂れ流しでゾンビのように踊り続けるがいい。


商品を出してもいなかったのだが音源売ってくれと声をかけられることしきり、
引っ張り出して行商よろしく売り歩く。
非常にマナーの悪い酔っ払いクソ白人どもに本当に頭にくる、日本語と英語で罵倒しまくりながら
何故か完売、ざまあ見ろ。
小銭が懐に来て少し、ほんの少しだけ機嫌が直る。


もはや文句をいう気も無いのだが、今夜の泊まり先すら決められていないオーガナイズ。
俺は勝手に控え室に寝床を造って寝た、うるさいパーティーも完無視で。
ルーマンに呪いをかけた、目を見て邪眼を開きお前のせいで全てが台無しになったことを伝える。
はっきりものを言わない奴らが集まると、こうなる。
俺はいつもイエスとノーだけで出来ている。あいまいなものなどいらない。


寝床は汚らしいばねが体に痛いマットで上着をかけて寝た。
ここまで書いてはいるものの、楽しみも悲しみも怒りも無かった。
せいぜい空騒ぎをやり過ごして、何も動かない心を横たえて、寝るだけ。


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この日、祖母が天にかえった。
この男をもっとも最初から愛してくれた人の一人だ。
感謝の意にとどまるところは無い。
そんな大事な人との今生の別れにも添えずとも
自らの誇りにかけて音楽を求め続け生きていくことを止めない。