僕を鳴らそう 私を聴こう@神戸ジーベックホール

子供とアーティストの出会い企画のワークショップ


実は数ヶ月前から準備されていたのがこのワークショップ。
NPO子供とアーティストの出会いからのご依頼で会場はジーベックホール。
かのFBI初期を支えたホールである。
企画の初期段階から参加、子供たちに音を出すことと音を聴くことという
音楽の根本的なところを学校教育では拾えないあたりで感じてもらうことを
主眼にしようと。


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昨夜ライブ終えて片付けと10日ぶりの帰宅準備をしたら睡眠時間が2時間。
2時に寝て4時に起きてそれでもきっちり朝飯と弁当は作って
ほとんど始発に乗って東京駅へ。
この時間の新幹線はたいてい満席だ。
最近青春18切符でばかり移動していたのであまりの贅沢にくらくら。
しかも自費だし、慈悲なし。
体力と知力のバランスを考えて資料を読んだりうつらうつらしたりを
繰り返すことに。


新神戸駅は快晴、新緑のような緑が目に痛い。
慌てて走って地下鉄とポートライナー乗り継ぎ。
ここまで東京から1本でもずれたら遅刻という神業やり過ごす。


今日のは全部映像に残してドキュメンタリータッチのものにするという
話を到着後聞かされる。うえ。
とにもかくにもゲネプロ
照明場当たりを中心とした舞台リハーサル。
通して1回、手直しを一通り、そして最後にもう1回通し。
初めて装着するヘッドセットマイクにCCB,
チューバにワイヤレスつけるのも久しぶりだ。
ヘッドセットが鼻息を拾うのが最高にいい感じだ。


昼ごはんは必ず行くという鉄板焼き「にくてんや」
この人工島には飯屋が少ない。
超満員、ジーベック関係者ほとんど全員いる。
初めての人は必ず頼まないといけないというそば飯定食を注文。
ハーフがあるくらいで、小山のような量が来た。
なにせ寝ていない、こういうときは体力つけるために胃はいくらでも空く。
ペロッと片付ける、普段なら正気ではない量。
満タンの腹を抱えてホールに戻る。


スタッフはそれぞれ持ち場へ。
僕は衣装に着替えて控え室、80分強の持ち時間、
原稿はなしにしたのだ。
何度も書いたけど、何度書いても嘘のような気がして
いつものライブのように起こったことに反応しようと。
伝えないといけないことは決まっている。


バスでやってきたゆりのき台小学校4年生146人。
対するは僕1人。


荷物を置き終えた子供たちの前にチューバ抱えて出、挨拶。
NPO代表井出上さんの導入に引き続き、自己紹介。
当たり前だが上がる。
基本的に子供が得意って訳ではない。
しかも146人。
座ってランダムに尻をもぞもぞさせているので
草原の雑草のように全体がゆらゆらと揺れていてそれに
ボーっと目を取られる。変な光景。


気を取り直して話を。
まあ自己紹介なんて短い時間でやってもたいしたことは伝わらない。
同じ伝わらないならすぐに演奏しちまえで、ソロ突入。
これまた少し上がっているが演奏は慣れたものだ。
基本的に循環、たまに声出し。
子供たちの感想は分からない。


音楽って何だろう?
そういうことを聞いてみると、だいたい思っていたような答えが返ってくる。
授業の影響、必要ない。
普段の音楽授業が伝えていない(というか意識すらしていない)ことを
伝えるためにやっているのだ。
ざっくばらんに基本にしたのはジョンケージ。
まずは「聴くこと」の話。
脳の話までは突っ込めないが、自分たちがいかに聞いているかを確認。
では聞く実践を、照明オフ。
非常灯以外が暗転、かなり暗い。
何の音がする?
エアコンかな、シューって音。
子「あ、ほんまや」
俺「いま誰かほんまやっていったね」
子「がちゃ」
俺「今誰か鍵落としたね」
子「きゅ」
俺「誰か今靴がキュッて鳴ったね」
子「えへ」
俺「今誰かえへ言うたね」
この音拾い速攻百連発をやってみた。
すると暗いからかそこらじゅうで連鎖反応的に音が鳴り
それを皆が聴いていることが手に取るように分かる状態に。
「これも、音楽かな?」


答えを決めはしない。
答えが決まっているのが授業なら答えを自分で探してもらうのが
ワークショップだと思うからだ。

こんな楽器もあるねと口琴の紹介などもやって
照明つけて『聴く』の話を一通り終えたら
次は『鳴らす』のほうに移行。
なーんてことはない、子供のころに僕がやってた遊びだ。


一つ目は『手でポン』
拝むように手で打ち鳴らして小さな空間から飛び出した空気を
食べるように口の中へ投入。
すると「ポン」って音がする。
うまくいくと音階も作れる。


二つ目は『はと笛』
僕と飲んだことのある人はたいてい知ってるアレ。
手をある形にふくよかに組んでそっと吹くとまるっこい音がする。
4歳の頃、イギリスで猟師から習った。


三つ目は『鉛筆キャップ笛』
全員に鉛筆キャップを配る。
瓶の口を吹く要領で吹くとかなり高い音がなる。


この三つをひとつずつ実践。
鳩笛は5〜10人に1人くらいの割合ですぐ出来る人がいるものだ。
つまり出来ない人もたくさんいるのは予測済み。
ただ3日から1週間今期よくやれば誰でも出来るもの。
今は出来なくても良い。種は植える。
それぞれすぐに出来る子は必ずいる。
その子を手本にするように周りに集まるようにと指示。


ここにきていったんトイレ休憩を取る。
その間、どうぞ練習も。
休憩中、数十人の子供たちがチューバを持った僕に群がってくる。
聖徳太子状態で受け答え。
分裂気味に早しゃべりする僕でぎりぎり。
チューバの中に入ろうとするのが5人ずつくらい、
それぞれ教えた奴のおさらいをしてくるのが15人くらい、
質問が5,6人、後は無茶苦茶な注文をしてくるのが数人。
いっぺんにやってくるが、いっぺんにやっつける。


休憩後はなかなかの混乱。
普通はいけないことなんだろうがなかなか喜ばしい。
さきほどの三つのテクニックをやりたい希望募りグループ分け。
以外に『手でポン』が少ない、『鳩笛』は出来ないのにトライしたいという
ガッツのあるのが意外と多くて驚き、
『キャップ笛』は最大派閥だ。


僕のまねをすることを教える。
まずは『手でポン』(黄色い照明)
あっという間にリズムについてきて驚く。
『鳩笛』(青い照明)はこれがものの見事に鳴らないが
鳴らない音がたくさんあるのがこちらには面白い。
『キャップ笛』(赤い照明)は予想通りうまくいく。


いったんやり始めると止まらないのが子供なんだが
2回もストップといえば止めたのに逆に驚いた。
そんなに大人の言うこと聞いていると将来が心配だ。
で、ひとグループずつ演奏を開始し、三つ重なったところで
僕のチューバとセッション。
僕が入ったら別に好きなことして良いよ、といってある。
ミニマル子供たち、一度やったらはまりすぎ、止めない。
『鳩笛』の子達が音が出ないのでそのまま高い声で歌いだしたのは
良かったなあ。
このあたりで照明もぐるぐる。


井出上さんのカウントに合わせて僕がジャンプして着地したら終了。
そこそこ汗をかく僕。
〆のお話をして退場。
井出上さんにバトン渡して、最後に学校の先生の話。


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子供たちの反応の残りが知りたくて舞台裏袖に潜んで耳をそばだてる。
「はい、皆さん、みんなで合わせてひとつになるって事が大事だって
 わかりましたねー」
という先生の話に心底がっかり。
本当にがっかりした。
そんなこと言ってない、というか一番言ってないことだ。
上記読んでも分かりにくいかもしれないけれど。
ずれても良い、出来なくても良いし、自分で感じることはもしかしたら
人と違うのではないかと思っても良い、という幅を持たせたのに。
また学校に帰ったら多くの子供たちが音楽が嫌いになる様なくだらない授業を
続けるのだろうか。深く考えることもしないで。
僕自身自分の考え方ややり方が正しいとは限定していない、
これはただ僕のものだ、伝える場があるならば伝えることだ。
いつか学校に火をつけてやろうと本気でも思っていたし皆殺しにしたくなったこと
もある僕はがっくり、仕方がない。
徒労は感じる、今時分が子供でなくて良かったと心底思うことがある。
あの頃子供でいることが本当に嫌だった。早く大人になりたかった。
音楽なんか出来ない子で楽しくもなんともなく人前に晒されるのが苦痛だった。
んなもんでも将来ミュージシャンやれてんだ。


今回のWSのために井出上さんと打ち合わせをしているときに
「いくら考えてもうまくまとまらない、考えが行き着くに
 僕は99.99%の人とうまくやっていけない」と言ったら
「だからアーティストなんじゃないですか」
と即答された。
僕は自分がアーティストだと思ったことはないが
どうしても世の中とうまくやっていくことの出来ない人間が
なんとか生き延びるために必要なものを見つけることが出来れば
どうにか生きていける、
そんなもんが自分にとって音楽であったことを思った。
将来野垂れ死にか犯罪者を宣告されたかつての小学劣等生は
なんとか好きなことを見つけてそれで生きている、
そんなケースの見本が僕だ。
「劣等性で十分だ、はみ出しものでかまわない」と
かつてのパンクスターは歌ったが、そんなこともある。
僕の考えは多くの人には伝わらないものだろう。


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などと時空間前後入り乱れて思い散らし。
終了後は片づけをしてカフェにて反省会と次回の打ち合わせ。
根をつめたブレインストーミング
今日の反省はスムーズに行き過ぎたこと。
もっと暴れるかと思っていたのだ、子供たち。
そうでもなかった、146対1でもなんとかなるくらい。
次回は中学生、もっと手ごわい。
内容を全面的に見直す。


お開きで帰宅。
ここで東京から珍しい来客があるので
和が街探索飲み歩き宴会に突入。
学生時代によく通ったお店に行く。
これより辛い食い物は知らないというアレを食って本当はご禁制のアレを飲んで
へろへろ。
近況報告をお互いする。
僕が渋さに入ってすぐに知り合った彼。
しこたまきこしてめて、寝不足のときは何でこんなに食えるんだろう、
めったに食わないラーメン屋へ。
異常なわがままが聞くこの店で、麺固めしょうゆ薄味脂薄め野菜多目という
特殊注文を一回で覚える店員偉い。
ここに来ると地元だなあ、と思う店。


しかしこの寝不足ハードワークでよくやるぜマイボデー。
タフネスに感謝するよ、ブレインは。
終電の友人を見送り床を見つけるにぶっ倒れ就寝。