成田・コペンハーゲン・ブリュッセル

成田には早めに着いた。
ここに来るのは久しぶりだがそんな気がしない。
前に参加していたバンドの出発地はいつもここで必ず何か不穏な感じがしていた。
今日はそれがない、ただチケットの控えがないこと以外は。
スカンジナビア航空のカウンターも探すも見つからない。
焦るがどうもSASというのが兼業しているらしい。英国空挺部隊か?


今回は楽器がないのでチェックインは非常に楽だ。
荷物の重量や扱いでも人生で一番負担なし。
ちなみに今回は荷物がものすごい少ない上に大事なものがほとんどない。
80%以上のものは失ってもそれほど困らないものばかり。
これが今回の旅の気持ちを妙に軽くしている理由のひとつだ。
少しだけ雑用を済ませ出国手続き。
ライターがひとつだけ持ち込み可能になっている。
僕は非喫煙者だが料理をするのでライターは必需だ。


通路側の席を頼んでおいたが満席で無理、しかし非常口近くの広い場所でついてる。
隣は同年輩くらいの白人女性。
スカンジナビアエアを使うのは初めてで、ずっとKLMばかりに慣れていたので少し勝手が違う。
コペンハーゲンまで10時間ほど、日ごろの長時間移動に慣れている身としては国内移動と変わらない。
食事も酒も英語もトイレもある、楽勝だ。
映画は流しっぱなしでうまくタイミングにのらないと冒頭から見れないことが判明。
そういえばKLMのビデオ間隔は謎だ、いつでも好きなところで再生できる。
食事は普通に機内食、選択肢はなし。


機内では映画以外には読書。
忌野清志郎「瀕死の双六問屋」
亡くなって10日以上が過ぎた、ロックヒーロー。
僕は熱心なリスナーではない、ただ2回ほどステージを同じくしただけだ。
先日のライブで半ば無理やり餞別代りに強奪してきた。
ミュージシャンの片手間のエッセイ、位に思っていたが打ちのめされる。
ひとつひとつが胸に刺さり熱くなる。
最近自分に付きまとっていた虚無感を吹き飛ばしてくれた。
出来れば多くの人に読んでもらいたい本だ。
人を愛し大切なものを抱え自分という悩みを抱える皆に。


離陸寸前に隣の女性と軽く話し。
日本に住んでいる、しかもミュージシャンだということ、名前はアンナ。
こちらも軽く自己紹介。なかなか感じのよい女性だ。
お土産にボリショイズのサンプルCDをあげる。
こういうのも結構面白いよな。


なかなか表示の出ないトランジット掲示板。
こういう時間にこうやって日記を書いていたりする。
コペンハーゲン空港は初めて、噂どおりシンプルな北欧デザイン。
館内にくだらない音楽がかかっていないのがいい。
現地通貨のクローネを持っていない、ここは物価が高いので少し我慢。
備えはしてある。


相変わらずユーロ圏内近距離の飛行機はまるでバスだ。
2時間ほどでブリュッセルに到着。
もう慣れているのでそのまま電車に乗ってなじみの駅へ。
向かいの黒人青年、日本帰りらしく話しかけてきた。
ミニスカートのギャルがたくさんいてカラオケいって毎日酔っ払って凄い楽しかったと。
盛り上がりすぎて乗り過ごしそうになった。


これまた慣れた駅からは徒歩で我が町サンジルへ。
半年たってないのだから当たり前だが何にも変わっていない。
今日はミュージシャンは留守が多く、友人みくさんちへ直行。
久々のみんなに再会の挨拶。
ほどなく近所でエキシビジョンの準備中だというマチューに会いに行く。
目と鼻の先にいた。
手書きのフィルムプロジェクターによるサイケデリックスとラジオとテープによるサウンドインスタレーション
どちらも彼だけの狂った世界。
緊張感のなかった来訪にぴーんと筋が入るよう。
やっぱこれだ。
ビール片手に彼と話。
ここにはかけないような深いことばかり。


僕との再会を心待ちにしていた、と彼は言う。
全然違うけど、僕を兄弟だという男。
何かを求めている、その強度だけかもしれない、似ているのは。
異様なまでに個人であること。
今回の僕の旅に目的は特にない。
ただ、感動したり理解しあったり知るため教えてもらうために来たのではない。
感動させたり伝えたり知らせたりするために来たと思っている。
さあどうなるだろうか今回の旅は。
やっとエンジンが温まってきた気がする。